祐一:「あゆ、大丈夫か〜」

 祐一が温泉から部屋へ帰ってき、部屋のドアを開けた。

あゆ:「うぐぅ〜、大丈夫じゃないよ〜」

祐一:「そこには鼻を押さえてうずくまっている少女の姿があった」

あゆ:「うぐぅ〜、鼻なんて押さえてないもんっ!!」

 祐一はあゆとの再会シーンを思い出し呟いた。

 その言葉にあゆは突っかかりながらも、まだ布団で横になったままの状態でいた。

 原因は前にも言った通り、たい焼きの食べ過ぎ。

祐一:「それで? 大丈夫なのか?」

あゆ:「うんっ♪ すっかり元気だよっ♪」

 あゆは少し照れた顔をしながらも布団から上半身を起こし、手をぶんぶん振り回す。

祐一:「そうか。 ありがとな、神尾さん」

観鈴:「にはは、お客さんの看病もお仕事のうち。

   それと、私のことは観鈴って呼んで欲しい」

?:「ぴこっ」

 あゆの布団の横にちょこんと座っている観鈴は笑顔でそう答えた。

 その横に座っている謎の生命体も一緒に。

祐一:「・・・なんだ、その毛玉は・・・?」

 祐一はその毛玉を指でつまみ上げ訊ねた。

 つまみ上げられた毛玉はぴこぴこ鳴きながら着いているのか分からないほどの手足をばたつかせている。

あゆ:「祐一くん、失礼だよっ!! その子はポテトって言って毛玉じゃなくて、れっきとした犬だよっ」

 観鈴もそれに頷く仕草を見せる。

祐一:「・・・犬・・・」

 ポテトは祐一の手から逃れようと祐一の手を囓っているが、今の祐一はそれどころではなかった。

祐一:(冷静になって考えろ、相沢祐一っ!! この生物を犬と認めてしまっては猿を人間ですと言ってるようなものじゃないかっ!

   ・・・しかし、この2人は本気で犬だと思っているようだ・・・おそらくこのポテトの飼い主であろう観鈴も頷いてることだし・・・) 

祐一:「・・・よしっ、お前を犬と認定しよう」

ポテト:「ぴこっ」

あゆ:「誰がどう見ても犬にしか見えないと思うよ・・・」

観鈴:「祐一さんって、実は目が悪かったりする?」

あゆ:「本人は両目とも2.0だって昔言ってたけど・・・」

 2人の少女の視線が祐一に集まる。

祐一:(・・・俺が変なのだろうか・・・)

 祐一は自分自身に問いかけてみるが当然答えは返ってこない。

 祐一は話題を変えるために、さっきから少し気になっている事を観鈴に訊ねた。

祐一:「えっと・・・そ、そうだっ、観鈴。 お客さんって他にもいるのか?」

観鈴:「えっと、団体さんが1グループと、佳乃ちゃんと遠野さんがいる。

   佳乃ちゃんっていうのは私の友達で、ポテトの飼い主さん。

   遠野さんも私の友達で、学年1の秀才さん。

   あとはお母さんと居候の往人さんと観鈴ちん」

あゆ:「ポテトは観鈴さんの犬じゃなかったんだね」

観鈴:「そう。 佳乃ちゃんの家の犬」

祐一:「その団体ってどんな人達だ?」

 祐一がまじめな顔で訊ねるのであゆは祐一に訊ねた。

あゆ:「どうしてそんなこと聞くの?」

祐一:「いや・・・なんだか気になってな」

 祐一自体、何故そんなことを訊ねたのか分からないという風な顔でいた。

観鈴:「う〜んとね・・・私と同じ年ぐらいの女の子がいっぱい。 それにかなり可愛かった」

祐一:(同い年ぐらい・・・しかも可愛いときたら・・・とりあえず一目ぐらい見とかないとな)

 祐一がそんなことを考えていると、あゆがじっと祐一を睨んでいた。

祐一:「あゆ? どうした?」

あゆ:「祐一くん・・・その考えてることを喋っちゃう癖、早く治した方がいいみたいだよ・・・」

 あゆがこめかみの辺りをひくひくさせながら立ち上がる。

祐一:「・・・俺・・・今考えてたこと・・・」

あゆ:「全部喋ってたよっ!! ううぅ、ボクにはもう飽きちゃったんだね・・・」

 あゆがそんなことを言いながら観鈴の膝の上で泣き崩れる。

観鈴:「よしよし」

 観鈴はそう言いながらあゆの頭を撫でている。

 その観鈴の顔が祐一のほうを向き、口をぱくぱくと動かす。

 祐一は観鈴の口の動き通りに声を出した。

祐一:「え、えっと・・・ごめん、俺が悪かった」

 あゆは祐一の言葉に顔を上げた。

あゆ:「・・・本当にそう思ってる?」

 祐一は微妙に観鈴を盗み見ながら、あゆを見つめてこう言った。

祐一:「もちろんだ。 俺は貧乳が好みなんだ・・・っておいっ!!」

あゆ:「うぐぅ〜っ!! 祐一くんのいぢわる〜っ!!!!」

 祐一の言葉に、あゆは全力で部屋から走り去ってしまった。

観鈴:「にはは・・・失敗失敗・・・」

祐一:「・・・失敗じゃすまないだろ・・・」

観鈴:「ごめんなさい・・・」

 観鈴は俯いて呟く。

祐一:「・・・いや、元はと言えば俺が悪いんだから気にしないでくれ

   ・・・俺はあゆを連れ戻しに行って来る」

 祐一はそう言って観鈴の肩をポンと叩き、ドアから出ていった。

観鈴:「・・・あ、そうだっ。 お母さんにお酒買ってこいって言われてたんだ。

   いこっか、ポテト」

ポテト:「ぴこっ」

 そうしてこの部屋には誰もいなくなった。

 

北川:「ふぅ〜、ひどい目にあった・・・ってか普通だったら死んでるぞ・・・」

 ああ、死んでるだろうな・・・初めの一発で

北川:「ふぅ・・・」

?:「わっ!?」

 ドンッ 北川が曲がり角を曲がったそのとき、何かが北川のボディに顔をめり込ませた。

あゆ:「うぐぅ・・・いたい・・・」

北川:「・・・・・・」

 北川は先ほどまでの激闘の傷がまだ癒えてないのか(こんな短時間で癒えるはずはないのだが)

 腹を押さえて踞ってしまう。

 当の特攻隊隊長あゆも鼻を押さえ踞ってしまう。

祐一:「あゆ〜っ!!」

あゆ:「わっ!! もう追いついてきたよっ!! えっと、ごめんなさいっ!!」

北川:「・・・あ・・・・・・う・・・」

 あゆが謝ると、北川は返事(?)をした。

 あゆはそれを確認すると一目散に走っていった。

 それを追って祐一も北川のいる曲がり角へとやってきた。

 まだ北川は踞ったままだ。

祐一:「だ、大丈夫ですか・・・?」

北川:「・・・ああ・・・な、なんとか・・・」

 祐一も北川もお互いのことはまだ気付いていない。

祐一:「あとできつく言っときますんで、すみません」

 そう言って祐一は北川に気付かないまま、再びあゆの後を追っていく。

北川:「本当にいて〜・・・今日は厄日だ・・・」

 厄日なのは今日『は』じゃなくて今日『も』であろう。

 

祐一:「あゆっ!! 危ないから止まれっ!!」

あゆ:「い、嫌だよ〜っ!! 止まったら捕まっちゃうもん〜っ!!」

祐一:「よく考えたら、何でお前は逃げるんだーっ!?」

あゆ:「追いかけられたら逃げるようにプログラムされてるんだよ〜っ!!」

祐一:「食い逃げ用プログラムだな・・・」

 などなど、2人は叫びながら鬼ごっこ(?)をしていた。

祐一:「しっかし・・・あゆのやつ・・・速いぞっ!!」

 祐一は2度のあゆとの食い逃げを分析した結果、

 あゆがこんなにも速く走れるとは思ってもいなかった。

祐一:「しかも・・・体力も・・・多いぞっ!!」

 祐一はすでに疲れ果てているが、あゆはまだまだフルバーストで祐一の前を走り続けている。

 しかし、その勢いも止まるときがきた。

あゆ:「うぐぅっ!?」

 あゆが角からやってきた人とぶつかる・・・前に相手が避けたので気持ちよくあゆは壁に激突した。

祐一:「あ、あゆっ!? だ、大丈夫・・・か?」

あゆ:「だ、大丈夫じゃないよ・・・」

 あゆが鼻を押さえて祐一を睨み付ける。

?:「・・・大丈夫?」

?:「うわっ、鼻真っ赤」

 角であゆをかわした2人は口々にそう言った。

祐一:「えっと、怪我とか無い・・・ですよね」

?:「・・・はい。 キチンと避けましたから」

?:「すごかったよ、美凪〜! 流れるような動きだったよ〜!」

美凪:「・・・えっへん」

 少し胸を反らした美凪の姿(胸)に、祐一は一瞬目を奪われた。

 その瞬間をあゆは見逃さなかった。

あゆ:「・・・祐一くんの・・・ばかーっ!!

 祐一の耳元でそう叫ぶと、あゆは再び走り去ってしまった。

祐一:「う・・ぁ・・・し、しまった・・・また・・・」

 耳を押さえながら祐一はふらふらと揺れている。

美凪:「また・・・なんですか?」

祐一:「え、あ、ああ、ついさっきもちょっと・・・」

 祐一は言いにくそうにさっきあったことを話した。

美凪:「ダメです、女の子を泣かせちゃ・・・」

祐一:(なんだか秋子さんみたいな人だな・・・)

美凪:「早く追いかけてあげてください」

祐一:「え・・・はい、ありがとうございます」

 祐一は少し頷いて、またも再びあゆを追って走り出した。

 その背中を見て美凪は小さな声で呟いた。

美凪:「国崎さんと似てます」

みちる:「そうかな? 国崎往人のほうがよっぽど人相悪・・・うにょっ!?」

往人:「誰の人相が悪いって・・・?」

 目つきの恐いおっさんが幼女を布団にくるんで誘拐しようとしている。

美凪:「・・・ロリコン?」

往人:「ちがうっ!! はぁ・・・それよりも、この布団、客室にとっとと運ばなくちゃいけないんだ。 

   だからちょっとそこ退いてくれ」

 そう言って往人はみちる入り布団を担ぐ。

 布団はもぞもぞと生物のように動いているが・・・

美凪:「ではお供します」

往人:「ああ、別にいいが・・・なんでだ?」

美凪:「みちるを返していただかないといけませんから」

往人:「そう言えばそうだな」

 2人+1人(布団入り)はとことこと歩き出した。

 

 あゆと祐一は・・・まだまだ走ります。

 

 

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