祐一:「はぁっ、はぁっ・・・」

 祐一は荒い息使いと共に弱々しい足取りで、しかし全力疾走で走っていた。

祐一:「はぁはぁ・・・ど、どうする・・・このままじゃ捕まってしまうぞ・・・」

 香里達はレーダーを持っている。

 そのおかげで祐一の大体の場所は分かってしまうので先回りをされたりetcetc・・・

 祐一との距離は付かず離れず元のままである。

香里:「ふふ、相沢くん、そろそろ限界かしら?」

 祐一の後ろから笑い声と共に香里の元気そうな声が祐一の耳に届く。

 先ほどから、だんだんと距離が近くなってきている。

祐一:「こ、ここで捕まるわけにはいかないっ!!」

 祐一は最後の力を振り絞って全力ダッシュっ!!

 そのままの速度で角を曲がったりいきなり姿を消した。

 その祐一を追いかけて美坂姉妹が走ってくる。

香里:「相沢くん、速いわね・・・栞、逝くわよっ!!」

栞:「えぅ〜、まだ逝きません〜」

 情けない声の栞が香里の後に続いて走ってくる。

 2人は祐一の消えた角へと走っていく。

祐一:「・・・行ったな」

 美坂姉妹が走り去ったあと、祐一が床を開け這い出てくる。

祐一:「ったく、なんなんだこの旅館は・・・なんで旅館に地下通路やら地下部屋なんかがあるんだ・・・?

   いや、むしろ今は好都合だ・・・今のうちにあゆを探さないと・・・」

 そう言って這い出た祐一は取りあえず自分の部屋へと足を進めた。

祐一:「たしか・・・こっちだったよな」

 祐一は元来た道を香里達に見つからないように戻っていた。

祐一:「・・・よし、ここを曲がれば俺達の部屋のはずだ」

 祐一が最後のコーナーに差し掛かろうとした瞬間、祐一の耳は何かの不吉な声を捕らえた。

美汐:「真琴、あまり人のものを荒らしてはいけませんよ」

真琴:「祐一のなら大丈夫よ♪」

 誰もいないはずの祐一の部屋から激しい物音と元気な声が聞こえてくる。

 声は美汐と真琴のものだけであゆの声はしなかった。

祐一:(・・・そういえば、追ってきたのは栞と香里だけだったな・・・

   美汐と真琴はここを張ってたってことか・・・

   真琴のやつ、変なことしてなけりゃいいけど・・・

   まぁ、あゆはここにはいないみたいだな・・・俺も見つからないうちに離れるか・・・)

 祐一が考えをまとめ、再びそこを離れようとしたとき、少し離れた場所から見知った(叫び)声が聞こえてきた。

 その声の主が速度MAXで走り寄ってくる。

あゆ:「うぐぅ〜、祐一く〜んっ!!」

祐一:「あ、あゆっ!? ちょ、ちょっと、止ま・・・」

 祐一が最後まで言葉を言い終える前にあゆのうぐぅタックルが祐一の腹に・・・

 当たらず、そのまま祐一とあゆの部屋のドアへと頭から突っ込む。

あゆ:「うぐぅっ!?」

 ドッコ〜〜〜ンっ

 激しい破壊音と共に部屋のドアが開けられる。

祐一:(潰されるの間違いだろう・・・)

 祐一はナレーションにツッコミながら取りあえず中の惨状を確認しておく。

 あゆは扉に突っ込んだままの状態で倒れている。

 美汐は畳の上で倒れた扉と祐一とあゆを見て、ぽかんと口を開けている。

 そして真琴は・・・

祐一:「あれ? 真琴は?」

 祐一が扉の上に乗り、部屋を見回しても真琴の姿は何処にもなかった。

祐一:「天野と一緒にこの部屋にいたと思ったんだけど・・・」

 祐一はそう言いながらあゆを扉から引き剥がす。

 扉にはくっきりとあゆの形が付いていた。

祐一:「この型を使えば、たい焼きならぬあゆ焼きが作れそうだな」

 祐一はそういって笑った。

あゆ:「うぐぅ・・・祐一くん、本気で言ってる・・・?」

 涙目のあゆが祐一を見上げる。

祐一:「ああ、そうか。 すまない、間違えた。 あゆ焼きを作るんだったらもう片方も型を取らないと・・・」

あゆ:「そう言うことじゃないよっ!! まずこういうときは初めに心配するものだよっ!!」

 涙目のあゆが本気で怒っている。

祐一:「ごめんごめん、大丈夫だったか」

あゆ:「取って付けたような言い方だね・・・」

 あゆは祐一の言葉にそっぽを向いてしまった。

 そんなあゆを見て、祐一はマズイと思ったのかあゆの頭を撫でながら・・・

祐一:「ごめんな、あゆ。 ちょっとした冗談だったんだ、許してくれ」

 祐一はそう言って頭を下げた。

 すると・・・

あゆ:「うん、じゃあ許してあげるよ」

 あゆは笑顔で祐一の方を向き、言い放つ。

祐一:「な・・・」

あゆ:「もう祐一くんの冗談には慣れたよ、こんなことぐらいで泣いてたりしたら身が持たないからね♪」

 あゆは自身の言葉にうんうんと頷いた。

祐一:「・・・ま、それだけ長いこといっしょにいたってことなのかもな」

 祐一はあゆの頭を撫でながら誰に対してでもなく、昔を懐かしむ様子で言葉を発した。

    、、         、、
あゆ:「いた、じゃないよ・・・いるだよ。 それはこれからもずっと・・・ね」

祐一:「・・・ああ、そうだな。 これからもずっと一緒だ・・・ずっと・・・」

 祐一はそう言いながらあゆの頬に手を触れ、お互いに顔を近づける。

 そんな様子を美汐は邪魔をするという考えも浮かばず、ただじっと見つめていた。

 そして、あゆと祐一の唇が・・・触れ合う・・・直前に2人の立っている扉が下から何者かに持ち上げられる。

 上に乗っていたあゆと祐一は、間一髪のところで地面に降り立つ。

 地面に降り立った2人が見たものは

 あゆの体当たりにより、ずっと扉に潰され、そしてずっとあゆと祐一が上に乗っていたにも関わらず

 完全に無傷の姿形をした真琴の憤慨した表情だった。

あゆ:「・・・」

 あゆは真琴の扉を持ち上げたままの状態と斜めにつり上がった目を見て声も出ない。

 だが祐一は違った。

 いち早く危険を察知すると、あゆの腕を掴み、全力で走り出した。

あゆ:「ゆ、祐一くんっ!?」

祐一:「話は後だっ!! とりあえず逃げるぞっ!!」

 何がなんだかさっぱり分かっていないあゆは放っておいて、祐一はあゆを引きずりながらも逃げる。

真琴:「・・・ゆ〜いち〜・・・許さないんだからっ!!」

 祐一とあゆを追って、真琴も部屋を出る。

 後に残された美汐は・・・

美汐:「・・・相沢さんも大切ですが真琴も大切です・・・こういう場合は、放っておくのが一番ですね」

 美汐はそう言うと扉を立て直し、お茶を一口啜った。

 

真琴:「まぁ〜て〜っ!! 祐一ーっ!!」

 目をつり上げたままの真琴が祐一とあゆ(主に祐一)を狙って追いかけてくる。

 ちなみに、扉を壊し真琴を踏みつぶしたのはあゆだ。

祐一:「待てるかーっ!!」

 真琴の手にはいつの間にか四次元ポケット(栞)が握られていた。

 つい先ほどばったりと出くわしてしまったのである。

 香里と栞は祐一達の部屋に戻る所だったのだろう。

 だが、真琴に手を掴まれ栞が、その栞を追って香里までもがついてきてしまった。

 しかし真琴はそんなことは気にもとめず、栞のポケットに手を突っ込むと、おもむろにカッターを取り出す。

 それには香里も驚いた。

香里:「栞っ! 何でそんなものを持ってるのっ!?」

 香里に昔の記憶が蘇る。

 手首に傷を負った栞の姿・・・

 だが、その栞のポケットには北川撃墜劇のとき使った武器が沢山入ったままのはずである。

 あれらの武器に比べればこの程度のものは武器にも入りそうにない。

 あれらの武器なら首でも一瞬ではねることが出来そうだった。

栞:「えぅ〜、お姉ちゃんが護身用にっていろいろ詰め込んだんじゃないですかぁ」

 真琴に振り回されながらも、栞は抗議の声を上げる。

香里:「私は護身用のものは入れたけど、自殺用のものは入れた覚えは無いわよ」

 護身用どころか殺人用であったが・・・

 しかし北川は死んでいないので良いことにしよう。

栞:「私はこのほうが使いやすいんですよ」

 そう言うと栞はポケットに手を突っ込み、カッターナイフを4本、指の間に挟んだ形で構える。

 その手を胸元で固定し投げる。

 カッターナイフは祐一とあゆ目掛けて一直線に飛んでゆく。

祐一:「うわぁっ!! あ、あゆ、避けろおっ!!」

 祐一は反射的にあゆを突き飛ばしていた。

 そして・・・赤く赤く染まった床に・・・1人の男が倒れ込んだ・・・

あゆ:「ゆ、祐一くぅ〜んっ!!」

祐一:「・・・あゆ・・・俺の名前を呼んでる場合じゃないようだぞ・・・」

あゆ:「ふぇ?」

 完全無傷の祐一が前方を向いたまま固まっている。

 あゆもそれに倣ってその方向を見た。

 その先には1人の男が今、この瞬間に息絶えようとしていた。

 ややあって真琴を先頭に栞、香里が追いついた。

栞:「怪我してないですよね?」

 祐一Loveの栞は元から祐一に当てるつもりはなかったのだ。

 当然あゆにも当てるつもりはなかった。

 栞は友達を刺すなどと考えたことは今までで一度もなかった。

栞:「前方約2mの位置に刺さったと思うんですけど・・・お二人とも、どうしたんですか?」

 栞の位置からでは祐一に隠れて前方がよく見えない。

 だが、香里と真琴は背が並々に高いこととあゆの後ろだったことで前の様子が確認できた。

 栞以外の4人は顔を青くし、開いた口が塞がらなかった。

栞:「えぅ〜、皆さん私にも驚かせてください〜」

 栞のその言葉に全員が左右に壁に寄りかかる。

栞:「・・・えっと・・・死んでますか?」

 栞は平然と死体(?)に語りかける。

栞:「・・・返事がない。 ただの屍のようだ」

往人:「だ・・・れが・・・屍・・・だ・・・」

 屍が最後の力を振り絞り起きあがる。

栞:「凶悪そうな顔が仲間になりたそうにこちらを見ている。 仲間にしますか?」

 栞はそう言いながら回りの4人を見回す。

 4人は全員一致で首を振った。

栞:「残念ですけど、ダメみたいです」

 もう往人の方もダメそうだ。

 その光景を見ていた祐一がふと我に返った。

祐一:「・・・や、やばいぞっ、みんなっ!! は、早く治療をっ!!」

 祐一のその言葉に他の3人は現実に引き戻された。

あゆ:「・・・ち、治療って、ここ山奥だよっ!?」

真琴:「・・・と、とりあえず警察をっ!!」

香里:「・・・どうやって証拠を消そうかしら・・・」

 三者三様の答えが返ってくる。

 まともなのはあゆだけで、真琴はすでに往人を殺しているし、香里に至っては助ける気が全くない。

 4人がおろおろしていると(栞は往人からカッターを回収中)晴子が祐一達とは反対方向から歩いてくる。

 酒を飲んでいるのか、足取りはかなり怪しい。

晴子:「お〜う、みんなで集まってなにしとんねや〜♪」

あゆ:「あ・・・晴子さん・・・」

晴子:「おう、晴子さんやで♪」

あゆ:「えっと・・・殺人事件だよ」

晴子:「誰が死んどんねや?」

あゆ:「・・・晴子さんの下の凶悪な顔さん・・・」

晴子:「ん? 下ぁ?」

 晴子が足下を覗き込むとそこには血の海に浮かぶ往人の姿があった。

晴子:「居候、そんなとこでなにしとんねん?」

祐一:「いや、そういうことを言える状態じゃないと思うんですけど・・・」

 往人の身体はすでに痙攣さえもまばらになり、そろそろ息絶えるだろう。

香里:「大丈夫なの?」

晴子:「大丈夫大丈夫、正当防衛で犯罪にはならんやろ」

香里:「ふぅ、それならいいわ・・・」

 香里は栞の無罪を確認すると、往人へと近づいていく。

 ちなみに正当防衛とは殺られる前に殺れということなので間違ってはいない。

 ※完璧に間違っています。

香里:「・・・ダメね、もう虫の息だわ」

 香里が往人の腕をとり、脈を測ってみるがすでに止まっていると言っても良いほど弱々しかった。

 皆がその場で黙祷をしていた。

 往人、享年20ぐらい? 死亡・・・

観鈴:「晩ご飯ですよ〜」

 館内放送により、観鈴のおっとりした声が館内に響き渡る。

往人:「さぁ、みんな早く食堂へ行くぞっ!!」

 晩ご飯の言葉を聞いた途端、往人は目をキュピーンッと光らせながら、猛ダッシュで駆けていった。

 腹の傷は完全に治っていた。

 その様子を祐一達は呆然と眺めていた。

晴子:「さ、みんな飯やでっ!! とっとと行った行ったっ!!」

 晴子の言葉で皆ゆっくりと食堂へと進んでいく。

 香里達も祐一とあゆを捕まえることさえ忘れて食堂へと向かった。

 

秋子:「では、私たちも向かいましょうか」

佐祐理:「そうですね、舞、行こ」

舞:「・・・まだクラクラする・・・」

名雪:「うにゅ・・・けろぴ〜は食べれるよ〜。

   でも『あれ』だけは食べられないよ〜〜っ!!」

 とまぁ、なんだかんだ言いながらも秋子さん一行も食堂へと向かった。

 

北川:「・・・この頃出番ないな〜」

 呟きながら食堂へと足を運ぶ。

 大丈夫だ北川、本当は刺され役はお前のつもりだったんだっ!!

 刺されなかっただけマシと思ってくれっ!!

 

 

 

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