祐一:「ふ〜、ここか・・・」
ここは有名な霊媒師の住むという屋敷、通称水瀬家。
雪のしんしんと降り注ぐ中、相沢祐一は佇んでいた。
祐一はぼろぼろになった地図の住所と屋敷を見比べる。
祐一:「・・・あってる・・・んだよな?」
祐一は何度も見比べてみるがその屋敷は水瀬家で間違いなかった。
表札にも『水瀬』とちゃんと書いてある。
祐一が疑うのも無理はなく、屋敷・・・というより普通の何の変哲もないただの一軒家なのである。
とても有名な霊媒師の住む家とは考えにくい。
霊媒師と言えば、和式のぼろぼろになった、いかにも何か出ますといった風な家を想像していた祐一だが、
この水瀬家は何年か前に建ちましたという雰囲気で全然らしくない。
祐一が門の前でどうしようかと迷っているとふいに後ろから肩を叩かれた。
突然のことに祐一は飛び上がり、何かと思いゆっくりと振り向くと、そこには1つの腰ほどまでの三つ編みを垂らした優しい笑顔の女性だった。
秋子:「うちに何かご用ですか?」
三つ編みの女性、秋子は頬に手を当てながら祐一に尋ねる。
祐一はしどろもどろになりながらも、どうしても霊魂と話をしてみたいということ、そしてあまりにもこの家が普通なので戸惑っていたことを説明した。
祐一:「・・・というわけで小説のネタに犯罪者の方の霊とお話しさせていただこうと思いまして・・・」
秋子:「あら、そうでしたか。 大丈夫ですよ、うちの名雪は一流の霊媒師ですから・・・どうぞ、お入りになってください」
秋子はそう言って祐一を家へと招き入れた。
秋子:「どうぞ、ここですよ」
秋子は祐一を名雪の部屋の前まで連れてゆくと階段を下りていった。
祐一:「ここが・・・」
扉にはご丁寧に『名雪の部屋』というプレートがかかっている。
祐一はごくりと唾を飲み込むと、扉に手を掛ける。
がちゃり、という音を立て、扉が開いた。
名雪:「いらっしゃい〜」
祐一が見たのは猫のどてらを羽織り、パジャマを着込んだ少女だった。
とても霊媒師になどには見えない。
とりあえず部屋に入り少女、名雪の対顔に座る。
この寒さにこたつは有り難かった。
名雪:「それで、どんな霊を呼んで欲しいのかな?」
祐一は秋子にしたのと同様の説明を名雪に話す。
祐一:「・・・小説のネタになるくらい大騒ぎになった犯罪者の霊をよんでほしい」
名雪:「ん〜、わかったよ、やってみるんだお〜・・・くぅ・・・くぅ」
そう言うと名雪は眠ってしまった。
コンマ1秒の早業である。
祐一:「お、おい・・・」
祐一が霊も呼ばず眠ってしまった名雪を起こそうと立ち上がろうとしたその時、名雪の頭上に何やら薄い靄のようなものが現れた。
それはどんどん形を成し、ついには少女の姿を形作る。
あゆ:「呼んだのは・・・きみかな?」
ダッフルコートを着た少女、あゆは祐一を見ると、尋ねかけてきた。
祐一はあまりのことにしばらく言葉を失っていたが、すぐに目的を思い出し、答えた。
祐一:「あ、ああ、俺が呼んだんだ。 お前は何の犯罪を犯したんだ?」
祐一は目をぎらつかせあゆの答えを待った。
実はこの男、小説を書くというのは全くの嘘で、実際の犯罪者の体験を元に自分も犯罪を起こして一攫千金を狙おうと考えていたのだ。
だが、あゆの答えは祐一の期待を全くと言っていいほど裏切った。
あゆ:「え・・・えっと・・・食い逃げ・・・」
ふわふわ浮かびながらあゆは恥ずかしそうに呟く。
祐一:「・・・へ?」
祐一は目を丸くして驚いた。
大犯罪どころか子供だったら怒られて終了なんじゃないか・・・?
そんなことが頭に浮かぶ。
あゆ:「うぐぅ・・・そんなバカにしたような目で見ないでっ・・・」
目に涙をため、あゆはぽかぽか祐一の頭を叩く。
実体がないので痛くも痒くもない。
祐一:「そう言ってもなぁ・・・食い逃げじゃあ一攫千金は狙えないだろ・・・」
あゆ:「何の話?」
祐一は本来の目的をあゆに一部始終話し尽くした。
あゆ:「う〜ん、でも、食い逃げだって食事代が浮くからお得だよ?」
祐一の話を聞き終えたあゆがそう言った。
祐一もそうだな・・・などと考え、あゆに食い逃げの作法を習うことにした。
その結果、百花屋という店にターゲットを付けた。
百花屋の二階のトイレの窓から脱出。
屋根をつたい、配管を使って下へと降りるということだった。
祐一:「よしっ、ありがとな、あゆ」
あゆ:「うんっ、祐一くん、頑張ってね♪ ボク楽しみにしてるよ」
2人は妙なお礼と励ましの言葉を掛け合い、話を終えた。
あゆが姿を消すと、名雪は瞼を擦りながら目を開けた。
名雪:「うにゅ〜、参考になったかな〜?」
祐一:「ああ、さんきゅっ」
祐一はそう言ってあゆの話に聞いた百花屋へと足を運んだ。
「いらっしゃいませ〜」
愛想のいいウェイトレスに、二階の席に案内される。
この時点で作戦は成功も同然、祐一は笑みを浮かべながら、料理を食べれるだけ頼む。
運ばれてきた料理に舌鼓を打ちつつ、どんどん空の皿を作り出す。
最後の一皿を食べ終えたところで、大きな腹を抱えトイレへ向かう。
計画通り、窓から外へ出、屋根をつたい配管のもとへと向かおうとした矢先、屋根の一部が欠けた。
そのまま転落、祐一は帰らぬ人となった。
祐一:「・・・俺は・・・死んだのか?」
祐一は自分の身体を見下ろしながら身体が脱力するのを感じる。
辺りに人が集まり初め、救急車の音が聞こえる。
だが、その救急車も無駄だろう。
すでに死んでいるのだから。
食い逃げして・・・死亡・・・情けない・・・
そう考え、肩を落とす祐一。
あゆ:「あっ、祐一くんだーっ♪」
あゆがそう言いながら背中に張り付いてきた。
祐一:「あゆっ!? ・・・俺もお前の仲間入りか・・・」
あゆ:「やっぱり、死んじゃったんだね・・・」
祐一は一瞬耳を疑った。
祐一:「・・・あゆ、やっぱりって・・・?」
おそるおそるといった調子であゆに尋ねる祐一。
あゆ:「うん、実はね・・・ボクもあそこで落ちたんだよ。 ってことはあそこの屋根は壊れやすく作ってるのかな・・・?」
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