香里:「はい、これ。 誕生日プレゼントよ」

 香里が栞にそう言って手渡した包みを栞が丁寧に開けてゆく。

栞:「ありがとうっ、お姉ちゃん」

 包みの中にはスケッチブックと絵を描く道具一式が揃えられていた。

香里:「実はね・・・ここだけの話、そのスケッチブックは魔法のスケッチブックなの・・・」

 栞がその言葉に疑問符を浮かべる。

栞:「魔法・・・どんな?」

香里:「絵に描いたことが実際に起こるのよ」

栞:「・・・本当ですか・・・?」

 じとっと疑うような眼差しで栞が香里を見つめる。

 表情から、信用できませんオーラがふつふつとわき上がって見えそうだ。

香里:「実際に描いてみなさい。 描けば分かるわ。 ただし魔法の効力は今日だけだから今日のことを描いて」

栞:「?・・・分かりました・・・」

 しぶしぶといった表情で絵を描き始めた栞。

香里:(上手くやりなさいよ、相沢くん・・・)

 

栞:「出来ました〜♪」

 数十分後、今日の栞の希望を描いたスケッチブックが完成した。

香里:「見せて。 ・・・相沢くん・・・やっぱりこの作戦・・・無理があったんじゃないかしら・・・?」

 香里が栞に聞こえないように小声で呟いた。

 その声は秋子発明、超小型マイクにより香里の部屋に待機中の祐一へと伝わっている。

 ちなみに祐一の声は香里には聞こえない。

 祐一はというと、これまた秋子発明、特製スケッチブックに描かれた映像が目の前のテレビ画面に映し出されているのを呆然と見ていた。

祐一:「・・・これは・・・絵・・・なのか?」

 そんな呟きを漏らしたくなるほど栞の絵は壊滅的に見えた。

 栞と付き合い始めて何回も栞の絵を見てきた祐一でさえもほとんど何を描いているのか理解できない。

 ただほんの少しだけ理解できた。

 抱き合った人間らしきものが逆さまに描かれていること。

 香里には完璧に理解できていない。

 それがわかるだけでも祐一は進化したと言える。

祐一:「・・・逆さまの・・・抱き合って・・・その2つが合わさると・・・」

 ぽくぽくぽくぽく・・・ち〜ん

祐一:「わかったっ!! 答えは心中っ!! ・・・って、をいっ!?」

 1人でノリツッコミをかまし、少し寂しくなる。

 しかし、祐一は栞の夢を叶えてやろうと思い、すくっと立ち上がった。

 そして栞の部屋へと向かった。

 

香里:「・・・ど、独創的な絵ね」

栞:「・・・それって誉め言葉ですか?」

 スケッチブックを栞に返しながら、そんなやりとりをかわす2人。

 そこへ扉をノックする音が聞こえる。

栞:「はい、どうぞ?」

 その声に応じて扉が勢いよく開け放たれる。

祐一:「・・・栞、一緒に死のうっ!!」

栞&香里:「はぃっ!?」

 言うが早いか、祐一は瞬時にベッドの上の栞を小脇に抱え、窓を開け放つ。

 祐一の目はぎらぎらと輝いている。

香里:「ま、待ちなさいって!!」

 それを慌てて止めに入る香里。

祐一:「止めてくれるな、香里っ!! これが栞の望みなら俺はっ・・・」

 目に涙を浮かべ言う祐一。

栞:「え、えっと、祐一さんっ!? ちょっと落ち着いてくださいっ。 私、そんなこと望んでませんっ!!」

祐一:「・・・はぃ?」

 そこで祐一の思考が一端ストップ。

 数秒して思考再開。

祐一:「それじゃあ、あの絵はなんだ? あれは心中を描いた絵じゃなかったのか?」

栞:「えう・・・そんなこと言う人嫌いですっ!! あれは噴水の前で抱き合ってる恋人達ですぅっ!!」

祐一:「・・・はぃ?」

 2度目の思考ストップ。

 数秒後、やっとの事で冷静さを取り戻した祐一が小脇の栞を床に下ろす。

栞:「よく見てください。 ・・・ね?」

 ね?と言われても訳が分からないものは訳が分からないのだが・・・

 よく見れば先ほどの絵は逆向きだったようで、とりあえずは抱き合ってるように見えないこともないような気がしないでもない気がする。

祐一:「・・・まだまだだな」

 誰にともなしに呟く祐一に香里が蔑みの視線を投げかける。

香里:「だからって、いきなり部屋に入ってきて死のうっ!!は無いでしょ、何処かの中毒者みたいだったわよ・・・」

 香里はアンテナのついた少年を思い浮かべ、その思考を頭を振り、捨て去る。

祐一:「・・・面目ない」

 しおしおと小さくなる祐一。

 そこへ栞の一言。

栞:「でも、なんで祐一さんがこの絵の内容を知ってたんですか?」

祐一:「さてと、じゃあ公園まで行くかっ」

 祐一は何も聞こえなかったかのようにそう言うと足早に部屋を後にした。

栞:「えうっ、答えてくれない人嫌いですぅっ」

 そう叫びながら、祐一を追って小さな人影が部屋を後にした。

 後に残った香里が小さくため息を吐いた。

香里:「世話のかかる人たち・・・」

 

 

 

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