秋子:「・・・というわけで、明日は名雪のハッピーバースディなんですね」
祐一:「ど、どういうわけか分からないんですけど・・・そうなんですか」
見慣れた水瀬家のリビング・・・今ここには祐一と秋子の2人が顔を合わせ座っている。
時間はP.M.10:00を少し過ぎた頃、話の主題である名雪はすでに夢の中。
少し変わったテンションの秋子に祐一はどう対応しようかと悩んでいると、秋子が話し始める。
秋子:「そうなんです。 ですので、この間の仕返しをしたいと思うんです」
祐一:「この間って・・・秋子さんの誕生日(1日体験家事入門参照)のことですか?」
はい、と秋子の弾んだ声が返ってくる。
秋子:「あの時は本当に嬉しかったですよ、祐一さん。
蝋燭が75本というのはどうかと思いましたけど・・・」
ぽそりと呟いた秋子の言葉に祐一は焦りを露わにする。
祐一:「い、いやっ、あれは真琴のやつが「いっぱいあったほうが嬉しいよねーっ」とかなんとか言ってっ・・・」
秋子:「うふふ・・・冗談です」
そう言った秋子の目はあまり穏やかなものではなかったが・・・
12/23・・・名雪の誕生日当日。
祐一は平常のごとく名雪の部屋の扉を開け放つ。
聞こえてくるのは名雪ご自慢の目覚まし時計の大騒音。
祐一は耳を押さえながらそれらを1つずつ止めていく。
最後の1つを止めた祐一が眠っている名雪に近づく。
祐一:「起きろ名雪、朝だぞっ」
そう言って名雪の身体を揺さぶる。
だが、これで起きては眠り姫の名が廃るというもの、名雪はビクともせずくーくーと幸せそうな寝息を立てている。
祐一:「・・・まぁ、当然か」
だんだんこんな状況にも慣れてきた自分が嫌になってくる・・・
そう思いながら、祐一は次の行動に出た。
祐一:「激甘ワッフル、御味噌味〜」
某猫型ロボット風に取り出した物体は、これまた違う某作品の中で現れたワッフルの改良版だった。
祐一:「ふふふ・・・新製品、糖蜜練乳味噌ワッフルの威力を見よっ!!」
そう言ってそれを1口大に千切ると名雪の口の中へと落とす。
名雪の反応はというと・・・
名雪:「・・・そんなに不味くはないんだお〜・・・」
祐一:「まぢかっ!?」
祐一は手の中の物体をしげしげと見つめる。
山葉堂・・・こんなもんばっかり作って潰れないのか・・・?
そんな感想すら浮かんでくる物体を祐一は口の中に含んでみる。
祐一:「っ!?」
光よりも早くトイレに直行。
しばらくお待ち下さい・・・
祐一:「な・・・何なんだ、あの味は・・・」
名雪の部屋に戻ってきた祐一が声を漏らす。
ふと大量の目覚まし時計を見るとそれらは揃って1つの時間を刺していた。
祐一:「や、ヤバイっ!? お、起きろっ、名雪っ!! 起きてくれっ!!」
名雪:「くー・・・」
祐一の叫びも虚しく無情にも時間は過ぎてゆく。
祐一:「仕方がない・・・いつもの最後の手段・・・は今日ぐらいは止めとくか・・・恥ずかしいんだが・・・」
そう言って取り出したいつものジャムを脇にどける。
その代わりに祐一と名雪の距離が0へと近くなる。
名雪:「・・・っ!?」
祐一:「残り5分だっ、いそげ、名雪っ」
そう言うと祐一は名雪の部屋を後にした。
祐一:「いってきます」
名雪:「・・・いってくるよ〜♪」
今だに顔を赤らめたままの名雪。
秋子:「気をつけていってらっしゃい、2人とも」
きっかり5分後、祐一と名雪は水瀬家を後にした。
秋子:「さてと、頑張って準備に取りかかりましょうか」
秋子が何やら嬉しそうにキッチンへと戻っていくのであった。
キーンコーンカーンコー・・・学校のチャイムが景気良く鳴り響く。
祐一:「後はいつもの石橋との勝負だっ」
名雪:「うん、がんばるよ〜」
互いを叱咤激励し、校門を走り抜ける祐一と名雪。
階段を駆け上がり、廊下を走り抜ける。
その先にある輝ける未来に向かってっ!!
勢いよく教室に転がり込んだ祐一と名雪は息を切らせながら辺りを見回す。
ざわざわとした雰囲気の中、生徒達が話し続けている。
祐一:「・・・輝いたぜ」
名雪:「うん、輝いてるよ〜」
香里:「・・・あんた達、何をそんなところで握手なんかしてるのよ」
呆れた声が祐一達の耳に届く。
声の主は学年一の秀才、美坂香里であった。
手を握り合った格好のまま、祐一は返答する。
祐一:「それはだな、こう、なんて言うか・・・達成感というものをだな・・・」
香里:「ほら、バカなこと言ってないで。 石橋来たわよ」
そう言って祐一の言葉を切り捨てると、香里は自分の席へと戻っていった。
名雪:「ほら、祐一も早く行こ」
祐一:「ああ・・・」
何やら煮え切らない物を抱えたまま朝礼が始まった。
朝礼の最中、祐一は1通の手紙を書いていた。
手紙と言ってもそんな大それた物ではなく、千切ったプリントにシャーペンで殴り書きをしているだけだ。
祐一:「・・・ちょうどいい具合に眠り姫はお休み中っと」
書き終わったそれを担任に見つからないよう後ろの席の男、北川へと送る。
北川は何やらいぶかしんだ後、満面の笑みを浮かべるとその紙切れを隣の香里へと渡す。
香里もそれを見た途端笑顔を浮かべると、そっと指で円を作った。
キーンコーンカーン・・・
北川:「くぅ〜っ・・・今日の授業も終了っと♪」
そう言って北川が大きく背伸びをする。
香里:「さ、とっとと帰るわよ」
背伸びをしている北川を引きずりながら急ぎ足で教室を出ていく香里。
そんな香里を見て首を傾げる名雪。
名雪:「香里、どうしたんだろ、あんなに慌てて・・・?」
祐一:「まぁまぁ、良いじゃないか。 たまには早く帰りたくなることもあるだろ」
名雪:「ん〜・・・そうだよね。 でも、なんで北川くんと・・・?」
祐一:「ああ、あいつら付き合っ・・・い、いや、たまたまだろ・・・」
扉の影から見えた眼光によって言葉を変える祐一。
名雪:「ん〜・・・そうだよね。 祐一、私たちも帰ろ」
名雪が振り向くとその光は瞬く間に消え去った。
祐一はほっと胸をなで下ろし、名雪に提案する。
祐一:「今日はちょっと寄り道していかないか? まだ時間もあることだし」
思いも掛けない提案に名雪はすぐに飛びついた。
名雪:「うん、いいよ。 久しぶりに2人っきりでデートだね♪」
名雪は祐一の手を引っ張り、教室から飛び出した。
名雪:「すっかり遅くなっちゃったね〜」
白い息を吐きながら名雪が空を見上げる。
夜空には満天の星空はない。
だが、替わりにひらひらと白い雪の粉が舞い落ちていた。
それらがクリスマスのイルミネーションに照らされ、幻想的な光景を作り出している。
祐一:「・・・綺麗だな」
そう、ぽつりと呟く。
雪を見ての感想ではなく、その雪の舞う中、空を一途に見上げる少女に対しての思いである。
名雪:「そうだね〜」
そんなことには微塵も気付かず、名雪はそう答えた。
祐一は少々落胆したが、これもまた名雪か・・・と思い直し、七色の雪の中を揃って帰途へとついた。
デートの最初から最後まで、名雪と祐一は手を放すことはなかった。
祐一:「・・・到着・・・だな」
何故か部屋の電気が玄関以外ついていない。
そんなことを考え、水瀬家の前で立ち止まる祐一。
計画ではこの後は・・・
そんな祐一を不思議そうに見つめる名雪。
名雪:「どうしたの? 祐一」
祐一:「い、いや、何でもない。 入るぞ」
自分にそう言い聞かせる。
祐一は扉を開け、名雪を中へと導く。
同時に、一斉に鳴り響くクラッカーの破裂音。
そしてみんなからの祝いの言葉。
「誕生日おめでとう、名雪(さん)」
数秒遅れて名雪の返答は・・・
名雪:「わっ、びっくりしたよ〜」
祐一:「いや、絶対に驚いてないだろ、その言い方・・・」
名雪:「そ、そんな事ないよ〜、すっっっっごく驚いてるよ〜」
わたわたと弁解を口にする名雪。
そんな微笑ましい光景を見ていた秋子が言う。
秋子:「さぁ、そんなところに立っていないで暖かいところへ行きましょう」
暖かい秋子の手が名雪の手を優しく引いていく。
居間への扉を開けると目の前に広がる光景は・・・イチゴ色のクリーム。
後から分かったことだが、この居間中、超巨大なイチゴのケーキになっていたようだ。
名雪:「いちごっ、イチゴッ、いッちッごッ〜♪」
妙な歌を歌いながら名雪が生クリームたっぷりの世界へと埋もれていく。
というか掘り進んでいく。
祐一:「・・・えっと・・・秋子さん・・・?」
一体何が起こっているのか分からないと言った風の祐一が尋ねる。
祐一:「計画では名雪の好きなものをお腹いっぱいとは言ってましたけど・・・」
見ればこの玄関以外は水瀬家全てがケーキに埋め尽くされているようだ。
あゆや真琴を筆頭に、少女陣が次々とケーキの中へと潜り込んで見えなくなっていく。
秋子:「喜んでもらえてよかったです、頑張った甲斐がありました」
娘の幸せそうな光景を秋子さんは笑みを絶やさず見守っていたという・・・
余談だが、次の日にはこれは全て食されており、平常と変わらぬ水瀬家であったという。
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