祐一:「・・・ふぅ、明日は真琴の誕生日か・・・」

 アニメのほうで俺が決めた真琴の誕生日は見事に外れていたってわけだ。

 そんなことを考えながら、祐一はベッドの上で寝返りを打つ。

祐一:「とりあえずアレは渡してやらないと・・・」

 そう言って机の上に目をやる。

 そこには何やらプレゼントらしき箱が置いてある。

 何日も前から用意していた箱をしげしげと見つめ、呟く。

祐一:「・・・他には何をしてやろう・・・?」

 

ふふ、お困りのようですね、祐一さん。

 

 月の光のみのほぼ真っ暗な祐一の部屋に、どこからともなく声が響き渡る。

 反射的に上半身を立て起こす。

祐一:「?・・・気のせい・・・」

 そう思い再び横になろうとした祐一。

 

気のせいじゃないですよ、祐一さん。

 

 その耳にまたもや実体のない声が届く。

祐一:「・・・なんだ、誰だっ!? まさか・・・無念の中に逝ってしまった栞の怨念かっ!?」

 祐一はそう言って栞の顔を思い浮かべる。

 ああ・・・あんなに寒い中でアイスなんか食べるからだぞ・・・栞よ、永遠なれ・・・

秋子:「失礼ですよ、祐一さん。 栞ちゃんはまだちゃんと生きてますよ」

 声と共に秋子が部屋の扉を開け放つ。

 ふと、祐一の頭に疑問符が浮かび上がった。

 俺・・・鍵閉めてたよな・・・真琴に襲撃されないように。

秋子:「甘いですよ、祐一さん。 私に掛かればあの程度の鍵なんて・・・」

祐一:「ピッキングッ!?」

 呆然とする祐一へ微笑みを向ける秋子。

秋子:「今度お教えしましょうか?」

祐一:「はぃっ!? え、いや・・・」

 微笑みながら犯罪を教えようとしないでください秋子さん・・・

秋子:「あら、そうですか? 残念です・・・」

祐一:「思考を読まないでください・・・で、さっきの声は秋子さんだったんですか?」

 あやふやになっていた話題を再構築する。

秋子:「ええ、そうですよ。 あれくらいの遠隔意思伝達はへっちゃらです」

 秋子さん・・・キャラガチガイマス・・・

秋子:「気にしないで下さい。 それより、真琴の誕生日のことでお悩みだったんでしょう?」

祐一:「御願いですから家中を肉まんで埋め尽くすのだけはやめて下さいね・・・」

 ・・・っち

祐一:「秋子さん、今舌打ちが聞こえたのは気のせいですか?」

秋子:「気のせいですよ。 とりあえず、明日の予定でも立てましょうか?」

 こうして夜は更けていく。

 

 真琴の誕生日、当日・・・

真琴:「おっ買い物〜、おっ買い物〜♪」

祐一:「わっ、おい、真琴っ。 そんなに急がなくてもいいだろ」

真琴:「だって、祐一が何でも買ってくれるんでしょっ?」

祐一:「そんなことは言ってないっ!! 秋子さんからお年玉貰ったんだ、自分で買えばいいだろ・・・」

 そんな会話をしながら雪の降る商店街を歩く真琴と祐一。

 商店街はそろそろ正月の休みを終え、営業を開始する店が増えてきた。

 それと同時に道行く人々の影も普段にも増して活気に溢れているかのようだ。

 実際、お金の廻りは良いのだろう。

 お年玉を片手に辺りの喫茶店で騒いでいるカップルもいつもより多そうだ。

 そんなことを考え、祐一はズボンのポケットの上から財布に触れる。

 ・・・まぁ、秋子さんもこの為にあれだけの量を渡してくれたんだろうな。

 ふとお年玉袋を開けたときのことを思い出す。

 お札が・・・1ま〜い、2ま〜い、3ま〜い、4ま〜い、5ま〜い・・・16ま〜い・・・

 今思い出しただけでも涎が出てくる。

 実際に涎を垂らしていたのだろう、真琴が祐一の目の前で手を振る。

真琴:「もしも〜し、祐一〜・・・? なんか遠い世界に旅立ってるわよ〜?」

 その真琴の声に祐一は、はっと目を覚ました 

祐一:「・・・あ、ああ、すまん。 ちょっと考え事をな・・・」

真琴:「・・・ふ〜ん」

 少々考え深げな表情を見せた真琴だが、すぐにいつもの明るい表情へと戻り再び祐一の腕を引っ張り始める。

真琴:「さ〜ぁっ! 今日は楽しむわよーっ!! 祐一のお金でーっ!!!」

祐一:「だから何でだーっ!?」

 祐一の叫びが虚しく商店街に響き渡った・・・

 

 空が茜色に染まる。

 太陽はそろそろその役目を終え、眠りにつこうかという時間。

 そんな中を長い影がゆっくりと足を進める。

 それは祐一と真琴だった。

 祐一の背に揺られながら真琴がすうすうと寝息を立てている。

祐一:「・・・ったく、まだまだお子ちゃま・・・でもないか」

 背中に当たる柔らかな感触にどぎまぎしながらも、頭を振りその考えを振り払う。

 長い帰り道をいつもの倍以上の時間をかけて戻った。

 水瀬家の前に着いたとき、辺りはすでに真っ暗になっていた。

 

 背中の真琴に声を掛け、揺さぶる。

祐一:「真琴、着いたぞ、起きろ」

真琴:「ん・・・もう朝・・・?」

祐一:「違う、家に着いたんだ」

 背中の感触に少し名残惜しさを感じながらも真琴を下ろす。

真琴:「ん〜、今日は楽しかったねーっ」

 伸びをしながら真琴が嬉しそうに言う。

祐一:「そっか、それはよかった。 でもな・・・まだこれからだぞ」

真琴:「へ? それってどうい・・・」

 真琴の返事も途中に祐一が水瀬家の扉を開く。

 眩しい光に数秒目がくらむ。

 開けた視界の中には素晴らしい光景があった。

 紅い絨毯、鳴り響くファンファーレ、大きなステンドグラス、家の外形を無視した大きさの結婚式場がそこにはあった。

 真琴が中を見て、ポカンと口を開けて立っている。

 祐一も開いた口が塞がらなかった。

 結婚式をしたいとは言ったが内装にここまで凝るとは思っていなかったのである。

秋子:「新郎新婦の入場です、拍手で迎えてあげてください」

 秋子の声に押されるように祐一と真琴が奥へと進む。

 左右に並べられた長椅子にはこの町で知り合った人々がぎっしりと詰まってこちらを見ている。

 割れんばかりの喝采の中、祐一と真琴は秋子の元へと辿り着く。

秋子:「ふふ・・・どうですか祐一さん」

 微笑みながらそんなことを尋ねる秋子。

祐一:「ど・・・どうと言われましても・・・えっと・・・ありがとうございます、こんな無理言って」

秋子:「いいんですよ、祐一さん」

真琴:「あの〜・・・これってどーゆー・・・」

 自分だけがわけの分かっていない状況であると分かり、素直に尋ねる真琴。

 その質問に祐一が頬を赤らめながらぼそぼそと呟く。

祐一:「これはだな・・・その・・・丘での結婚式ではこれを渡せなかっただろ・・・」

 そう言って祐一は例のあの箱を取り出し、真琴へと渡す。

 真琴がその包みを慎重にほどき、中の物を取り出す。

真琴:「これって・・・」

 真琴が取り出したそれは光に照らされてきらきらと輝く指輪だった。

真琴:「祐一・・・」

祐一:「結婚・・・しないか、もう一度・・・みんなの目の前で・・・」

 祐一がぼそぼそと呟くような声で囁く。

 その言葉に真琴の顔は満面の笑みで応えるのであった・・・

 

 

 

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