北川:「ふははははは〜っ、よぅく来たなぁ、相沢ぁっ!!」

祐一:「うら」

 正面の大きな螺旋階段(あとで秋子に聞いたところ、幅15m 長さ3km、この場所は全てのフロアの中継地点らしい)を声を張り上げながら駆け下りてくる。

 右手には真名回をしっかり握っている。

 祐一はそんな北川に向かってあゆの幸夜を一枚ちぎり、投げつけた。

北川:「おうっ!?・・・」

 羽は見事、北川の額に命中。

 北川はバランスを崩し、階段を転げ落ちる。

 祐一たちの立っている一番下には、先ほどの幸夜の羽がまだまき散らされたまま。

 このまま行けば全身を切り刻まれることになる。 

北川:「とっ、止まれーっ!!」

 北川は真名回を地面に叩き付け、勢いを止めようとした。

 だが、叩き付け、速度を弱めたまではよかったのだが、今度は棒高跳びの要領で身体が宙に浮かび上がる。

北川:「うおっ!?」

 北川は真名回を軸に、半円を描きながら床目掛けて高速で落下してくる。

 当然、落下予想地点にも幸夜の羽が散らばっている。

 ずどおぉぉぉん

 凄い音と濛々たる煙を上げながら北川は羽の海へと背中からダイブ。

 と思いきや、羽は何処にも見あたらず、残っているのは無惨に潰れた北川のみである。

 真名回が変化を解いていないことが北川生存の唯一の証拠である。

祐一:「・・・しぶといな」

 祐一が呆れたような、驚いたような声で1人ごちる。

あゆ:「あれ? この羽、時間が経つと消えちゃうんだね」

祐一:「お前な・・・秋子さんが言ってたじゃないか。 「本体から切り離された幸夜は3分で消えて無くなる」ってな」

あゆ:「てへへ・・・途中までは聞いてたんだけど・・・難しすぎて・・・」

 舌をちょこっとだし、あゆがすまなそうな顔をする。

美汐:「・・・気をつけてください・・・まだ」

 美汐が注意を促すより少し早く、何者かが頭上の長く吊されたシャンデリアから落下してくる。

 あゆ、祐一、美汐はその気配に気付き、いち早くその場を離れる。

 残ったのは仰向けの北川のみ。

 頭上70mほどからのニードロップが北川の腹部に命中した。

舞:「・・・しまった」

 ニードロップをした本人が立ち上がって呟く。

 潰れた北川潤とおぼしき人物は辺りに赤の海を広げながら動くことはない。

 しかし、真名回はまだ形状を保ったままだ。

祐一:「・・・ある意味超人だな・・・北川も・・・それに・・・舞も、なっ!!」

 祐一は息を一気に吐き出し、舞の背後から左から右へ、白雪を薙いだ。

 だが、すでにその場所に舞の姿はなく、白雪は空を切る。

舞:「・・・祐一、甘い」

祐一:「男は辛い方がいいんだ・・・よっ!!っと」

 一瞬にして祐一の背後に回った舞が頭目掛けて大上段から鎮を振り下ろす。

 祐一はこの攻撃を前に飛ぶことでかわす。

 しかし舞はその行動を読んでいたのか、思い切り振り下ろしている刀を空中で制止させるとそのまま祐一の頭目掛けて突きを繰り出す。

美汐:「・・・先輩・・・すみませんが・・・これ以上相沢さんに無理をさせるわけにもいきませんので」

 舞の祐一を狙った突きを、美汐の華詩の刃が間に入り、止める。

 少しの沈黙の後、お互い赤の中心(北川)を基点とし左右に、大きく間合いを取る。

祐一:「・・・天野、助かった」

 祐一は少し息を切らし、美汐に向かって呟く。

 だが、目は舞を捉えたままだ。

美汐:「北川さんが起きあがるまでは手伝います」

 こちらも舞を見つめたまま華詩を構え直す。

 祐一は少し舞から目を離し、前方に落ちている北川を見る。

 痙攣もせず、白目をむいて倒れたままだ。

 動く気配は全くと言っていいほど無い。

 むしろ、真名回が元に戻らないのが不思議なほどだ。

祐一:「・・・よし、天野、頼む」

美汐:「頼まれました」

あゆ:「うぐぅ・・・ボクは・・・?」

 舞の落下蹴りを避けた状態のまま、あゆは上空を漂っている。

祐一:「暇があればあゆは上から俺達の補助をっ。 それよりも佐祐理さんを見つけることを優先してくれっ」

あゆ:「うん、わかったよっ」

 あゆはそう言ってさらに上へと舞い上がる。

 この城は、このエリアから、他の全てのエリアへと行ける大木のような構造になっている。

 この広間が幹で、それぞれの部屋が枝の先にあると考えてもらえばいい。

 螺旋階段の所々に他のエリアへの入り口がある。

 城・・・と言うより塔に近い。

 よって、あゆの行動は間違ってはいなかった。

 だが・・・この大木の中には獲物を狙う蛇がいることにあゆはもちろん、祐一、美汐もまだ気付いてはいなかった。

 

 あゆが上空に飛び立ったのを確認すると、祐一は白雪を構え、じりじりと舞に躙り寄る。

 美汐は後ろで舞の出方を伺っているのかまだ動かない。

 そんな2人に対し、舞は足を大きく曲げ、次の瞬間、上空に飛び上がる。

祐一:「なっ!?」

 祐一の驚きをよそに、舞は上空のシャンデリアに飛び乗る。

 そこからさらに上のシャンデリアに飛び移る。

 スピードはあゆより速い。

 追いつかれるのは時間の問題だ。

 しかも、あゆは舞に全く気付いていない。

 祐一が危険を知らせようにも、すでにあゆの姿は小さく、声の届く範囲ではなくなってしまっている。

美汐:「・・・どうしますか?」

祐一:「どうするも何も・・・上るしかないだろ・・・この馬鹿でかい階段を・・・」

 そう言って祐一と美汐は螺旋階段へと足をのばした。

 

あゆ:「うぐぅ・・・このお城、なんでこんなにも大きいんだろ・・・」

 あゆは羽を動かしながらそっとため息を吐く。

 行けども行けども天井は見えず、シャンデリアに当たりかけたこと数回、疲労はかなり溜まってきている。

 更にいくつかのシャンデリアを避けて上を見上げると、遂に階段が途切れた。

 階段は天井の上へと繋がっているようだ。

あゆ:「や、やっと着いたよ・・・」

 息も絶え絶えに、あゆは階段に降り立ち、上に出る。

佐祐理:「ばーんっ♪」

 階段を上がった瞬間待っていたのは笑顔の佐祐理と、一直線にあゆへと向かう赤い炎。

あゆ:「うぐぅっ!?」

 その炎を、あゆは幸夜の両翼で自身を包み、防ぐ。

 咄嗟の出来事にあゆが完全に反応しきれないでいると、佐祐理が腰に付いているガンホルダーの側面に空いた手を伸ばす

 そこについているポケットから何かを取り出す。

 それは弾丸だった。

 青い、2cmほどの弾。

 佐祐理が手の中の夏刃の後ろについている取っ掛かりを親指で押す。

 すると、夏刃の銃身が後ろに反り返る形に開き、そこから空の弾丸を取り出す。

 佐祐理は開いたそこに、弾丸を挿入する。

 夏刃の銃身が、かちりという音を立てて閉められる。

 あゆは、今やっと我に返ったかのように幸夜に手を伸ばそうとするが。

佐祐理:「遅いですよ〜」

 佐祐理が再び銃を撃つ。

 その弾は、今まさに羽を投げつけようとしたあゆの手に直撃する。

 あゆの手からは赤い血が・・・

あゆ:「うぐぅっ!! ・・・って痛くないよ・・・? ・・・だけど、冷たいよっ!!」

 あゆが手を確認する。

 血は出ていない。

 だが・・・凍っていた。

 右手首から先は全く動かすことが出来ない。

佐祐理:「あはは〜、どうですか? 夏刃の弾は〜? これは魔法を打ち出すんですよ〜。 弾は一度発射すると使えなくなるんですけど

    ランダムにまたホルダーに転送されるようなんですよ〜」

 佐祐理がそう説明しながら誇らしげに胸を張る。

 その胸の大きさのほうが、あゆにはダメージが大きかったようだ。

 あゆは羨ましげな目で佐祐理(胸)を見やる。

 佐祐理はそんなあゆの目にいつもとは異なる威圧感を覚えた。

佐祐理:「あゆさん・・・? どうしたんですか・・・?」

 佐祐理がそう訊ねる。

 だが、今のあゆには佐祐理の声どころか、自分の声さえも耳に入っていなかった。

 あゆは無意識に叫ぶ。

あゆ:「・・・どうして・・・どうしてなの・・・どうしてこんなに不公平なのーっ!!」

 あゆを中心として光が溢れる。

 その光は階下の舞や祐一達にも届き、その目をくらます。

 当然、目の前の佐祐理も効果内だ。

 咄嗟に佐祐理は目を瞑る。

 その耳にあゆの叫びが聞こえる。

あゆ:「山、山、山っ!! 連ねる山々の大きいことっ!! 崩すは雨、風、雷っ!!! それは神々の為すままにっ!!!!」

 あゆは意識なく叫ぶ。

 そのあゆ・・・いや、背後の幸夜の羽、一枚一枚から、細かな糸が伸びていた。

 よく見るとそれは糸ではなく電気。

 あゆの背後に翼が展開される。

 幸夜のほのかな桃色の羽をかき消す、輝く雷の翼が作成される。

 その雷の羽があゆの身体から次々と離れていく。

 その雷の羽根、一枚一枚は辺りを破壊しながら佐祐理へと迫る。

 佐祐理は手早く銃の弾を確認、夏刃へ詰め込むとあゆに向けて放つ。

 弾の色は黄。

 あゆへと向かって雷の矢が勢いよく飛んでいく。

 羽根はあゆを守っているわけではなく、無作為に辺りを破壊しながら佐祐理に近づいてくるだけ。

 佐祐理の攻撃はそのままあゆへ直撃、そして辺りの羽根は消滅し佐祐理は助かる・・・はずだった。

 だが、雷の矢は一枚の羽根に触れたかと思った瞬間、矢は霧散してしまった。

佐祐理:「ほえ〜・・・一枚一枚の威力が比べ物にならないくらいすごいようです〜」

 佐祐理はそう言って目を閉じた。

 電気の走る衝撃、手の中の夏刃の消失感、目を開けるとそこにはあゆは居らず、無惨に破壊された王室があるだけだった。

佐祐理:「ほえ〜、負けてしまいましたね〜」

 佐祐理はその場にぺたりと座り込む。

 手には元の銀の指輪がはまっていた。

 

秋子:「倉田さんが倒れましたか・・・」

   (それよりもあゆちゃんといい、名雪といい、あの子達に意識を持っていかれているようですね・・・

    それに・・・あの攻撃はもしかしたら・・・)

 秋子の心配をよそに、あゆの暴走は続く。

 佐祐理を倒したことを幸夜が察知すると、あゆは身を翻し、階段を下りる。

 

舞:「・・・何か・・・来るっ」

 舞はすでに頂上に近い場所まで来ていた。

 しかし舞はあまりにも多大な殺気に上へと飛ぶことを止め、シャンデリアの上で鎮を下段に構える。

 その舞が上を見る。

 シャンデリアの光とは別の鋭い光。

 それが雨のように舞目掛けて降り注ぐ。

 頭上にあったシャンデリアを次々と破壊しながら、舞へと迫る。

 

 祐一と美汐はそんなことには気付かず、延々と上へと登ってくる最中だ。

 今、1/3を過ぎたところだろうか。

 当然、北川の起きる気配は一切なかった。

 

 

 

 

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