舞:「・・・」

 舞のアリクイは当然のごとく剣へと形状を変えた。

 だが、いつもと少し違うのはそれが片刃の、いわゆる日本刀であるということだ。

 舞がそれをその場で振るう。

 風切り音はするが剣の姿がまったく見えない。

 それは日本刀、まもるの効果などではなく、舞自身の突飛した身体能力のおかげだ。

 素振りを止め、舞が鎮を目の高さまで上げ見つめる。

舞:「・・・大分嫌いじゃない」

 

祐一:「・・・やっぱり・・・俺が相手しなきゃダメか・・・?」

 その光景を見ていた祐一が後ろを振り返り、弱々しい声で2人に訊ねる。

 あゆと美汐は無言で、だが、大きく頷いた。

美汐:「川澄先輩と戦えと言うのですか? ・・・それほど酷なことはないでしょう」

祐一:(それを任されている俺の身にもなってくれ・・・)

 祐一の胸中など知る由もなく、美汐は身長ほどの鎌、華詩かしをぶうんと1振りする。

 金色の柄に金色の刃、刃の付いている辺りには狐の尻尾らしき毛束が9本付いている。

 その尻尾が鎌を振った衝撃でゆらゆらと揺れている。

 美汐が北川を見つめる。

 その目は獲物を見る虎の目・・・いや、ジャムを勧める秋子の目と少し似ている物があった。

 新しいものを早く試してみたいという気持ちの表れ・・・

 

北川:「・・・うわっ・・・すっごく見つめられてる気がする・・・普段なら嬉しいんだけど・・・今回ばかりはなぁ」

 北川はそう言って自分の獲物、真名回まなえに目をやる。

 黒く光る3mはあるのではないだろうかと思われる刀身、そこには何語かも分からないような白い文字が刻まれている。

 鍔、柄と、全身が黒く染まっている中、その文字だけがよく目につく。

北川:「これ、軽いな〜。 って言うかこの長さは反則的なんじゃないか・・・?

   しかし・・・美汐ちゃんには悪いが・・・香里に良いところ、見せとかないとなっ」

佐祐理:「あはは〜、北川さんがんばってくださいね〜」

 佐祐理は手の中の銃短剣ガンナイフ夏刃なつばを西部劇のガンマンのようにくるくる回しながら言う。

 鋼のような鈍い輝きを放つ銃。

 それにはトリガー部分と銃身部分の間の普通の銃とは少々異なった大きな空きがある。

 その部分に同じく鋼色に輝く刃が取り付けてある。

 刀身が銃身より10cmほど出ただけの夏刃に、接近戦での効果がどれほどあるのかは定かではない。

 

あゆ:「・・・弾が当たったら痛そうだよ・・・って言うか、普通避けれないよっ!?」

 あゆは1人、大きく叫びながらじたばたと動き回る。

 そのたび、背中の羽がゆらゆらと揺れる。

 いつもの羽リュックではなく、童話の天使の持つような大きな本物の羽である。

祐一:「・・・この羽・・・何なんだよ」

 祐一は顔に当たる羽、幸夜さちやのうち一枚を毟り取ってみる。

 するとそれは見る見る内に硬質化し、小型のナイフとなる。

 毟られたところからは瞬時に新しい羽が生え始めている。

 背中についた状態では本物の羽と変わりないのだが、一度背中から離れると硬質化するようだ。

祐一:(・・・秋子さん・・・あんたは何がしたいんですか・・・?)

 見た目は天使の羽を持つ小さな少女・・・。

 だが実際のところ、歩くたびに羽をまき散らし、その羽で辺りを切り刻む、いわゆる歩く凶器である。

祐一:(・・・綺麗な羽には剣がある・・・いや、綺麗な花には棘がある・・・だったか)

   「まぁ、いい。 頼りにしてるからな、天野」

美汐:「はい、北川さんを殺ってすぐに応援に駆けつけます」

祐一:(凄い言われ様だな・・・北川)

あゆ:「うぐぅ・・・ボクもいるよっ!!」

 あゆが羽をまき散らしながら暴れる。

 その度、祐一と美汐は切り刻まれないようにあゆから離れる。

あゆ:「うぐぅ・・・」

 あゆは2人に避けられたのがショックでその場にのの字を書き始める。

 見かねた祐一があゆの頭を撫でながら言う。

祐一:「すまなかった・・・しかし、その羽をまき散らすのはやめてくれ・・・。 ともかく・・・頑張れよ、あゆ」

 祐一の言葉に励まされ、あゆが笑顔で頷く。

 それと同時に羽が舞い散ることを止めた。

 先ほど秋子が 「止めようと願えば止まりますからね」 とあゆに説明していたのを祐一は聞いていてよかったと思い、安堵の息をつく。

 

秋子:「準備はいいですね・・・では。 チーム3-3 祐一&あゆ&美汐vs舞&佐祐理&北川、モードN.R. 

   それから・・・少し趣向を凝らした方がいいですよね」

 秋子はそう言ってパソコンに向かって何かの単語を打ち込む。

 c.a.s.t.l.e ・・・castleキャッスル ・・・城のことだ。

秋子:「ふふ、では、戦闘開始です」

 秋子が宣言し、Enterを押す。

 

祐一:「よしっ、行くぞ、2人ともっ・・・って! ・・・なんだ、これは・・・?」

 祐一は大きな口を開け、その場で見上げる。

 その視線の先には立派なお城があった。

 買ったらいくらするのだろうか・・・

 闘技場も城の大きさに合わせ、同時に大きくなっているようで、直径1〜2kmほどはありそうだ。

祐一:「・・・何なんだよ・・・一体・・・」

 祐一は誰に対してのものかもわからない文句を呟く。

 それに対し、あゆと美汐が間髪入れずに答えた。

あゆ&美汐:「だって、秋子さんだもん(ですから)」

祐一:「・・・まぁ、そうだな。 ・・・とりあえず中に入るか」

 そう言って祐一たち一行は身長の3倍はあるかという城門慎重にくぐり抜けた。

 「秋子さんだもんな・・・」などという普通なら訳の分からない、

 だがKanonグループではこれ以上ないほどの力を持った支配者の名を祐一は呟いていた。

 

舞:「・・・お姫様」

佐祐理:「あはは〜、王様です〜」

北川:「兵士・・・ま、いっか」

 舞たち一行は先に場内へと進入。

 そして今は城の最上階である王室に侵入していた。

 あちこちを探っていると、衣装があったのでそれぞれが着替えてみたのである。

 当然、舞と佐祐理が着替えるときは北川は部屋の外に、縄にぐるぐる巻きにされて待たされていた。

北川:「こんなことしてていいんだろうか」

 ふと北川が思い出したかのように呟いた。

舞:「・・・そういえば戦いの途中だった」

 舞が抑揚の無い声で言う。

 顔にはしまったという表情が浮かんでいる。

北川:「忘れてたんですかっ!?」

佐祐理:「あはは〜、佐祐理もすっかり忘れていました〜」

 佐祐理の声に、北川は頭を抱える。

北川:(な・・・なんなんだ・・・この緊張感の無さは・・・今から戦うっていうのに・・・)

 北川は舞と佐祐理を交互に見る。

 舞の戦闘技術は祐一に嫌というほど聞かされていた。

 1人で暴力団事務所に殴り込んで一瞬で壊滅させたとか、

 その辺りで絡んできた男をばったばったと叩き伏せて15連勝とか・・・

 そのおかげでこの町は平和なんだという。

 佐祐理さんは学校を裏で操っており、自分の好きに出来たりなんかするそうだ。

 そのおかげで学校で名雪が授業中眠っていても、栞が中庭に不法侵入しても大丈夫だったらしい。

北川:(・・・嘘だな)

 北川は祐一のこのことを話していたときの顔を思い出す。

 確実に笑っていた。

佐祐理:「北川さん、行きましょうか?」

 1人握り拳を握り、明後日の方を向いていた北川に、佐祐理が問いかける。

北川:「あ、は、はいっ!! な、なんですか?」

佐祐理:「そろそろ行きませんか?」

 佐祐理は制服の上に王様の着るような真っ赤なガウンを羽織い、それを引きずりながら近寄ってきた。

北川:「そうですね・・・それは着ていくんですか・・・?」

 明らかに動きにくそうだ。

 現に、それを羽織ってから何度目かの転倒未遂が北川の目の前で起こった。

 未遂というのは、佐祐理が転びそうになる度に舞が支えていたので未だに転んではいないからだ。

 舞も純白の華麗なドレスに身を包んだままだ。

 先ほど佐祐理に誉めてもらったのが相当嬉しかったのだろう。

 北川の問いに2人はこくりと頷く。

北川:「・・・もしかして・・・俺もデスか?」

 北川は嫌な予感を胸の中にしまい込んで、2人に尋ねてみる。

 嫌な予感という物は何故か当たりやすい傾向にある。

 北川は鎧をがしゃんがしゃんと鳴らしながら2人の主に着いていくのであった。

 

祐一:「うわ・・・今更ながら大きいな・・・」

 祐一たち一行は一階の大広間へと足を進めていた。

 ぶ厚い赤い絨毯、馬鹿でかいシャンデリア、金銀で彩られた壁・・・

 完全に別世界だった。

 あゆと美汐も辺りを見回している。

 先ほどまでの警戒心はどこへやら、夢中になってはしゃいでいる。

あゆ:「わっ、祐一くん、大きいシャンデリアだよっ!!  わっ、祐一くん、この絨毯、ベッドみたいだよっ!!」

祐一:「あゆ・・・頼むからあまり暴れないでくれ・・・」

 あゆはそこらじゅうを縦横無尽に飛び回っていた。

 背中の羽、幸夜はやはりというか飛べたらしい。

 童話の中の天使のように、ほとんど羽ばたかずに宙を飛んでいる。

 物理的に絶対不可能なことも秋子の手にかかればこの通りである。

 だが、この幸夜、羽が危ない。

 先ほどから、飛び回るあゆの羽を避けるのに祐一と美汐は神経をすり減らしていた。

美汐:「・・・羽の舞い散る風景・・・思ったより感傷には浸れないようですね」

 軽くステップを踏みながら羽をかわす美汐。

 その姿はまるで踊っているかのようにも見え、祐一はしばしの間動きを止めて眺めていた。

 次の瞬間、羽の雨が祐一の元いた場所に激しく降り注いだ。

祐一:「・・・サンキュー、天野・・・」

美汐:「ぼーっとしてると危ないですよ・・・?」

 美汐がスカートを手ではたきながら立ち上がる。

祐一:「いや、なに・・・天野があまりにも綺麗だったんでな、見とれてたんだ」

美汐:「・・・相沢さんはお世辞がお上手です」

 美汐が顔色1つ変えずにそっぽを向いてしまう。

 だが、耳がかなり赤くなっている。

あゆ:「うぐぅ・・・ごめんなさい・・・」

 祐一が横を見ると、あゆが小さくなっていた。

 祐一は今にも泣き出しそうなあゆの頭に手を置き、撫でてやる。

祐一:「大丈夫だよ、ちょっと危なかったがな。 あんまり暴れないでくれよ」

あゆ:「うん、気をつけるよ」

美汐:「・・・どなたかいらしたようですよ」

 あゆの機嫌が直ったところで、間髪入れず美汐が言った。

 美汐の目線を追うと、そこには・・・っ!?

 

 

 

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