巨大な風雪をよそに、名雪は・・・当然のように眠っていた。

 この上なく幸せそうに・・・

名雪:「うにゅ・・・けろぴーは食べれないよ〜。

   でも、お母さんのジャムを食べるよりマシだお〜・・・」

 立ったまま寝言まで呟いている。

 そんな名雪を見て祐一は秋子に向かって話しかける。

祐一:「秋子さ〜ん、あれじゃ名雪とは戦わなくてもいいんじゃないですか?」

 秋子は微笑みを絶やさず名雪と祐一を交互に見つめる。

秋子:「名雪を甘く見てはいけませんよ、祐一さん」

祐一:「へ?」

 祐一が秋子と言葉をかわしている間に名雪は祐一に迫っていた。

 もちろん眠ったままである。

 眠っていても陸上部部長を誇る足は健在のようで、一気に距離は狭まる。

 名雪はレイピアを腰の辺りに構え、祐一の首目掛けて突き出してくる。

 秋子と会話していた祐一は名雪が迫っていることに気付いておらず、名雪を見とめたのは名雪のレイピアが祐一の首をかすめる寸前だった。

名雪:「くー・・・残念だお・・・次・・・行くお〜、有州ありす〜」

 名雪は一段目の攻撃がかわされたと悟るとその突き出したレイピア、有州をそのまま横に薙いだ。

 名雪の有州は祐一の首をきっちり捉えていた。

秋子:(名雪は眠っていた方が攻撃が読みにくいですよ・・・なにせ、名雪自身が何をしているのか分かってないんですから・・・)

 祐一は有州の刃を大きく後方へ飛ぶことで上手くかわす。

 有州を振り切った名雪は一瞬、無防備な身体の左側を祐一に明るみにしてしまう。

 祐一はその瞬間を見逃さなかった。

 名雪に大きく一歩踏み込むと、白雪を横から振り上げる。

名雪:「くー・・・寂しさに泣くのは猫、その涙は全てからの拒絶・・・だお〜」

 名雪に白雪の刃が当たる直前・・・名雪を包み込む様に水が現れた。

 その水を祐一の白雪は切り裂く。

 いや、切り裂くことは出来なかった。

 ただの水ならば名雪にまで刃は届くはずだった。

 だが、その水は白雪の刃を包み込み、名雪への衝撃を無としてしまった。

 祐一は白雪を引こうするが、猫涙は絡み付くように白雪を掴んだままで動かすことさえ出来ない。

祐一:「くっ・・・ダメか・・・」

 祐一は思いきり引っ張ってみるが白雪はびくともしない。

 それどころか徐々にずぶずぶと水の体内に飲み込まれていく。

 名雪は水のベッドでゆったりと眠っていた。

秋子:(名雪がこんなにも早く有州を使いこなすとは思わなかったわね・・・

   ・・・でも、あの技は・・・確か息が・・・)

   「あらあら、名雪ったら・・・」

 秋子の微笑みとほぼ同時に、名雪が目を覚ます。

 そして名雪が目を覚ました途端に猫涙も四散して消えて無くなる。

名雪:「けほっけほっ・・・な、何で周りが水だらけだったのかな・・・? 息が出来なかったよ〜」

 名雪はそう言って起きあがる。

 目は覚めているようだ。

祐一:「お前・・・あの水、自分で出したくせに中で息出来ないのか・・・」

名雪:「うにゅ? 何言ってるの祐一。 私が水なんか出せるわけ無いじゃない」

 名雪は祐一と真琴の対戦の時からずっと寝ていた。

 よって、祐一のうたのことも知らないので、水を出すなどという超常現象が起こるとは考えもつかないのだろう。

祐一:(さっきまでのことは無意識にやってたのか・・・常人じゃねーな・・・)

   「ま、どうでもいいか・・・ とりあえず、お前を倒さないと俺の財布がピンチなんでな・・・倒させてもらうぜっ!!」

 祐一は言葉を言い終えるか否かのところで右足をバネに一瞬にして名雪に迫る。

名雪:「わっ、祐一が迫ってくるよ〜。 ・・・夜より過激だよ〜・・・」

祐一:「なっ!? お、俺は何もしてないぞっ!!」

 祐一の接近に驚いた(?)ような声を出しながら名雪は大きく横へ飛ぶ。

 一方、祐一は名雪の言葉に瞬間的に戸惑い、動きが鈍る。

 そこへ名雪の有州が祐一の側面から襲いかかる。

 嫌な衝撃と共に有州が祐一の右足を貫いた。

祐一:「ぐっ!?」

 祐一は倒れそうになったが今一歩のところで踏みとどまり、白雪を大きく振るう。

 名雪が白雪の動きに対応し、大きく下がる。

 そして、再び名雪の猛攻が開始される。

 祐一は名雪の的確な突きの連続攻撃を皮一枚のところで避ける。

 直撃はしていないが細かい切り傷が無数に作り上げられる。

 祐一は名雪のその突きを紙一重で避けながら、隙を見て白雪の刃の腹で有州を背中に受け流す。

 そうしながら、突きを放った体勢のままの名雪の腹に右膝をたたき込んだ。

 反動で背中を丸めた名雪の後頭部に、追撃の踵を落とし込む。

 名雪の身体がどさりと地面に倒れこんだ。

祐一:「・・・勝負あり・・・だな」

 そう言って祐一は踵を返して立ち去ろうとする。

 どすっ

 焼けるような感覚を覚え、祐一は胸を見つめる。

 そこにあったのは祐一の胸から伸びる、紅く輝く刃であった。

 後ろから名雪が有州を引き抜く。

秋子:「ゲームセット、勝者 名雪&真琴 !!」

 秋子の声と共に白雪、有州が消滅する。

 祐一は夢の中にいた。

 辺り一面、綺麗なお花畑。

 川は光り輝き、鳥が羽ばたき飛んでいく・・・いや、よく見ると鳥などではなく・・・羽の生えた金だ。

 札が福沢諭吉ではなく夏目漱石である辺り、祐一の財布の厳しさを物語っている。

祐一:「ま、待ってくれ〜っ、俺の漱石〜っ!!」

名雪:「祐一〜、何言ってるの〜?」

 祐一が正気に戻ると、名雪が顔を覗き込んでいた。

祐一:「いや、なに・・・悪い魔女に俺の金が奪われる夢を見たりなんかしたのかもしれないんでな・・・いや〜、夢で良かったっ!! さ、帰るかっ!!」

 祐一はそれだけを早口でまくし立てるとドアへ向かって歩き出す・・・もとい逃げ出そうとする。

 だが名雪は逃げようとする祐一の襟首を掴んでいた。

 祐一の足は前へと進まない。

 それどころか後ろへずるずる引きずられていく。

名雪:「帰るんじゃなくてこれから行くんだよ〜、百花屋に〜。 うふふ〜、いちごさんで〜、食べ放題〜♪」

 名雪はイチゴサンデーの歌(?)を口ずさむほど上機嫌だ。

 一瞬、何処かの強面のお兄さんのように目がきゅぴーんと音を立てて光ったかもしれない。

秋子:「お疲れさまです、祐一さん」

 秋子が娘に引きずられる祐一を見て苦笑する。

祐一:「秋子さ〜ん・・・たっけて〜・・・」

秋子:「頑張ってきてくださいね♪」

 祐一の助けは1秒了承ならぬ1秒励ましに見送られ、祐一と名雪は部屋から出ていく。

 名雪に引きずられていった祐一が戻ってきたのはそれから1時間ほどあとのことだった。

 財布の中は・・・言わないでおこう。

 

 その間を利用して、秋子は香里と栞に対戦を勧めた。

 香里も栞も大きく頷いた。

 それぞれが少し武器の説明を受け、フィールドに出ていく。

秋子:「では・・・香里vs栞、戦闘モード N.R. ・・・今回は傷などもできる通常モードにしておきますね」

香里&栞:「はい、わかりました」

 香里と栞はお互い頷き合うと、腕を振るう。

 香里は金色の星の形をしたネックレス、栞はストールと同じチェック柄のハンカチ。

 その形状が変化する。

 香里のネックレスはカタールに似た、腕に装着するタイプの剣×2。

 刃の長さは手のひらを広げたより少し短い。

 剣の付いている篭手の部分は金色で装飾は少し字が彫られているほどだ。

 香里にとっては近距離での格闘戦の補助ぐらいにしか使えないという考え方だろうが、これにはまだ隠された能力があるらしい(秋子談)

 栞のハンカチは薙刀へと姿を変える。

 薙刀の棒の部分の柄がハンカチの時と同じチェック柄だ。

 こちらもまだ隠された能力が・・・(秋子談)

栞:「えう〜・・・」

 秋子がその声に振り向くと栞が現れた薙刀ごと盛大に転けていた。

 ・・・というか潰されていた。

 栞が薙刀を持ち上げようと頑張っているが、なかなか持ち上がらない。

 最後には香里に薙刀を持ち上げてもらっている始末。

 長い間病気で運動をしていなかったので、栞には筋力がほとんどないに等しい。

 そんな栞が自分の身長以上の薙刀を振り回すには多少無理があった。

秋子:「あらあら・・・栞ちゃんには少し重かったかしら・・・」

 秋子はそう呟くとパソコンの中の1つのファイルを開く。

 そこには栞の持っている薙刀、葉涙はるいの能力が示されていた。

 秋子がかたかたとキーボードを打つ。

 その間も栞は葉涙を持ち上げようとがんばりを見せていた。

秋子:「・・・出来たわね。 栞ちゃん、これで持ち上がるんじゃないでしょうか?」

 秋子はデータを少しいじると、栞に話しかける。

 栞はすでに薙刀との格闘で息を切らして座り込んでしまっていた。

栞:「えう・・・それじゃあ、持ってみますけど・・・重さが変わるわけじゃないですよね・・・?」

 栞は立ち上がり、再び葉涙に手を掛ける。

 そして大きく振り上げた。

栞:「わ〜、軽いですよ、これ」

 先ほどとはうって変わり栞が楽しそうに葉涙を振り回す。

香里:「栞、そろそろいいかしら?」

 香里は両手のカタール、凛恋りんれんを胸元でクロスさせた状態で訊ねてくる。

 すでに香里は臨戦態勢に入っていた。

栞:「おまたせしました、いいですよ」

 栞も少し前屈みになり、刃を上に向けて葉涙を下段に構えた。

秋子:「準備は良さそうですね・・・では、戦闘開始!」

 2人はほぼ同時に地を蹴って飛び出した。

 

 

 

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