白雪を杖に、頼りない足つきでふらふらと森の中を歩く祐一。
遠くからは3人の夢見る少女の大声で祐一の名を呼ぶ声が聞こえる。
「祐一く〜ん」 「祐一〜」 「あなた〜♪」 ・・・
・・・聞き間違いだろう。 と(無理やり)思い込み、足を進める。
祐一:「・・・しかし・・・何処か休む所・・・」
行けども行けども森が続く。
たまに休めそうな大きな木や、木製のログハウスなどを見つけたが何処にも先約がいた。
木には熊や蜂などの野生生物、ログハウスでは・・・
少し時間を遡り・・・祐一は1つのログハウスを見つけていた。
祐一がログハウスのドアを開けた瞬間、匂ってくるのは酒の匂い。
こちらの様子に気付くこともなく、トランプの兵隊達が飲めや歌えやの大宴会。
やっと気付いたかと思うと先頭のトランプが床に転がっていた空の酒瓶に足を滑らせ倒れ、それにつまずき後ろのトランプも見事に倒れる。
次の瞬間、トランプの兵隊達は消え去っていた。
誰もいなくなったログハウスに佇む祐一。
だが、床には立つ場所もないほどにゴミが散らかっているわ、酒の匂いは立ちこめるわ、ということでとても休めるような雰囲気ではなかった。
仕方なく祐一は再び森の中をうろつきだしていたのであった。
しかし、それもそろそろ限界に達しようとしていた。
歩く速度が遅くなる。
剣を持つ手が痺れてくる。
遠くから俺を呼ぶ声が聞こえてくる。(当然3人の声であって、妄想上の幻聴などではない)
祐一:「ああ・・・でも、死んでもゲームオーバーになるだけだよな・・・」
そう考えながら身体を倒そうと目を瞑る祐一。
その時、ふと祐一の耳元で、ある言葉が風船のごとく大きく膨れ上がってくるような感覚に捕らわれた。
「その代わり、負けたら相沢くん、みんなに百花屋で際限なく奢って貰うわね♪」
「・・・負けたら・・・際限なく・・・奢って・・・」
「・・・際限なく・・・」
「・・・際限なく・・・」
「・・・際限なく・・・」
「・・・際限なく・・・」
「・・・際限なく・・・」
「・・・際限なく・・・」
祐一は目を見開くと、倒れそうになる身体を白雪で支えなおした。
その頭の中では先刻の香里の言葉が何度もリフレインしている。
そして考える。
みんなとは?
水瀬家に集まってる女性陣。
奢るとは?
自分の負担で、会食の費用などを肩代わりしてやる。(新明解国語辞典参照のこと)
際限なくとは?
きりが無い。 果てしが無い。 (上に同じ)
つまり、いつまでも、俺の財布の中身が0になったとしてもみんなの会計を払わなければいけないということだ。
それを防ぐには?
負けなければいい。
負けるとは?
自分が倒れること。
祐一はここまでの思考をまとめ、考え直す。
負けた時点でマグロ漁船行きだと。
祐一は気合いを入れ直すと、足に力を込め歩き出す。
しかし、ふと思うのだった。
あの際限なくは1日限りの約束なのだろうか、と・・・
立ち止まり、身震い1つして祐一は歩き出した。
祐一:「兎に角、香里を倒さない限りは俺に勝ちはない」
1人そう呟き、頭の中で現状を整理してみる。
あゆ、真琴、美汐の3人は俺の後ろ、2〜300mほどの所でうろうろ。
舞と秋子さんは・・・放送のときのままなら城の方向。
香里は未だに何処にいるのか・・・
祐一がため息をつこうとしたが、そのような暇はなくトランプに発見、そしてそのまま攻撃を加えられる。
数字を見ればスペードの10、かなり数字が大きくなっていた。
祐一:「ったく・・・こっちは疲れてるんだぜ」
祐一は毒づきながらも白雪を構える。
辺りをチラリと見回すが、他のトランプは見えない。
1人なら勝てる、そう思い祐一は、大上段に振りかぶり襲いかかるスペードの10を迎え撃つ。
振り下ろされるスペード型の剣を右へ半歩動くことで避けると相手の胸元に左の拳をめり込ませる。
その衝撃に数歩後退るカードを右手の白雪で袈裟懸け状に切り裂いた。
カードが姿を消すと、再び静寂が辺りを支配する。
・・・かに見えたが、そうでもなかった。
茂みをかき分ける音らしきものが聞こえる。
それは祐一の背後からだった。
おそるおそる祐一が後ろを振り返ると、そこには今にも化鈴を振り下ろさんとする真琴の姿があった。
真琴:「祐一、覚悟ーっ!!」
祐一は振り下ろされる刃を前方に転がることで避けると白雪を構える。
真琴は不機嫌そうな顔で祐一を見つめている。
真琴:「もー、なんで当たらないのよーっ!!」
祐一:「いや、当たったら死ぬだろ」
冷静な祐一の指摘に真琴はあぅの音も出ない、かに思えたが不満を露わにした顔で後を続ける。
真琴:「真琴のためなら死んでも嫌じゃないでしょっ!!」
真琴がそう叫びながら祐一に向かって高速で近づいてくる。
祐一:「嫌に決まってるだろうがっ!!」
真琴の刃と白雪の刃の一端が重なり合う。
金属と金属の合わさる小気味の良い音と共に祐一は次の行動に出る。
祐一の右足が正面で鍔迫り合っている真琴の腹部を狙って繰り出された。
自分を狙う足に気付いた真琴は身体の力を瞬時に抜き去り、地面に崩れ落ちる。
祐一:「っ!?」
そのことで祐一の剣を支えていた力は消え去り、刃が地面を深くえぐり取る。
ミドルを止めバランスを崩した祐一が体勢を立て直すより早く、起きあがった真琴のハイキックが祐一の肩を捉える。
祐一:「くっ・・・」
後方へ跳ぶ回避した祐一の肩に真琴のつま先が触れる。
肩が壊れるほどの威力ではなかったものの、白雪を掴むタイミングを逃してしまう。
白雪を真琴の目の前に突き立てたまま跳んだ祐一は今は丸腰の状態だった。
真琴が顔に不敵な笑みを浮かべ、白雪を引き抜く。
真琴:「ふふっ、祐一の武器げっと〜♪」
化鈴の付いていない左手に白雪を掲げながら、真琴が飛び跳ねる。
祐一:「・・・少し本気を出さなきゃいけないみたいだな」
真琴:「ん? 何か言った? ゆうい・・・っ!?」
真琴が声に反応し目線を戻したとき、そこに祐一の姿はなかった。
盛大な音を奏でながら茂みが揺れていた。
祐一は逃げ出した・・・
そのようなテロップを何処かで聞いたなぁ、などと考えていた真琴の脳に稲妻のように情報が流れ出す。
真琴:「ま、待ちなさいよ、祐一っ!?」
真琴はせっかく見つけた獲物にみすみす逃げられたと気付くと、慌てて茂みの中に潜り込んだ。
その瞬間、真琴は首元に衝撃を受け茂みの中に倒れ込んだ。
祐一:「悪いな、真琴。 少し眠っておいてくれ」
背後からの声に気が付くのと、左手に握られた白雪が抜け落ちるのはほぼ同時だった。
そのまま足音は出来る限り音を消しながら離れていく。
真琴の脳がこのことを整理するには少々の時間がかかった。
だが、最終的な結論に行き着いたとき、真琴はかっと目を開いた。
肉まんが逃げてしまう。
真琴のこの思いは延髄を打たれたことさえも忘れさせていた。
ゆえに真琴は立ち上がる。
何故ならそれは愛する肉まんの為だから・・・
真琴:「祐一ーっ、逃がさないわよっ!!」
真琴の声に祐一が驚きの表情で振り向く。
目線の先には真琴が化鈴を頭上に掲げながら目を閉じている。
鎖がりんりんと音を鳴らしながら揺れている。
祐一は剣を構え直しながら先ほどの打撃について考える。
確かに一寸の狂いもなく延髄に打ち下ろしたはずだった。
それが何故?
その答えが出るより早く真琴の声が森に響く。
真琴:「・・・古より生を受ける九の尾を持つ者・・・我が鈴の刃に灯れ・・・」
いつもの騒がしい真琴の声ではなく、涼しげで幻想的な声が響き渡る。
そして、詩が終わった途端、化鈴全体が蒼い炎をあげ燃えさかり始めた。
焦る祐一とは別に涼しげな顔でその状況を見守る真琴。
蒼炎はさらに勢いを増して燃えさかる。
その炎は何処からか吹き出した突風にかき消された。
祐一がまたもや驚きに目を見開いた。
化鈴の刃の数が9つまでに増え、真琴の周りをふわふわと浮いているのである。
腕輪の四方八方から流れ出す鎖がいつかのように途中で途切れていた。
鈴鎖・・・秋子の言葉を祐一は思いだしていた。
特別な音により聴覚から視覚にまで影響を及ぼし、鎖を消えたように見せかける代物。
祐一は冷や汗が背中を伝うのを感じずにはいられなかった。
前回の戦闘では1本の鎖に殺られかけた。
真琴は先ほどから俯き、表情が分からなかった。
だがその真琴の口がくすりと笑みの形に広がったように見えた。
それと同時に2本の化鈴の刃が祐一に向かって飛びかかってくる。
速度は前回の対戦の比ではない。
辛うじて1つを叩き落とすと、他方を身体すれすれのところで避ける。
真琴:「・・・惜しかったですね。 でも、次はどうですか?」
真琴の口から真琴の声とそれとは別の誰かの声が重なり合って祐一に話しかけてくる。
だが、祐一にはそのことを深く考えている暇はなかった。
再び先ほどとは異なった3本の刃が左右と正面から祐一を襲う。
祐一:「ちぃっ!! ・・・冷酷なる戦争の爪痕っ!!」
祐一は叫びと共に剣を横に薙ぐ。
刃の軌跡を追う様に氷の刃が空中に展開される。
真正面からの化鈴の刃が1つ、その氷の刃と衝突する。
すると、化鈴は氷の刃に張り付いたかのようにその動きを止めた。
みるみる内に化鈴が凍り出す。
その氷は鈴鎖を伝い、真琴に向かって進行する。
真琴:「なかなかやりますね・・・古の九尾の狐火よ、燃えさかれ・・・」
そう呟きながら真琴は化鈴の1つを掲げ、静かに目を瞑る。
すると突然、氷の導火線となっている鈴鎖が燃えさかる炎に包まれた。
氷の刃を半分に溶かし、化鈴の刃は地面に落ちる。
その間にも後の2本は氷の刃の範囲外、祐一の左右から襲いかかる。
祐一:「・・・
祐一を中心として風の渦が出来上がる。
化鈴の刃は風に巻き込まれ、祐一の身体にまでは届くことは無かった。
真琴:「そんなにも詩を使用していて大丈夫なんですか?」
風の外で傍観している真琴が他の声と共に起伏のない声で尋ねる。
祐一:「・・・もう立ってるのが精一杯ってとこだ」
そう言って祐一は自嘲的な笑みを浮かべるとがくりと膝を折った。
白雪にもたれ掛かりながら、肩で息をする祐一。
風を隔てた向こう側で真琴の顔が呆れたものに変わるのがはっきりと見て取れた。
真琴:「倒れてしまったら今までの抵抗に意味はなかったと思いますけど」
祐一:「・・・いや、そうでもないさ・・・」
そう言った祐一の顔からは自嘲的な笑みは消え、代わりに勝ち誇った笑みを浮かべる。
真琴は怪訝な顔をしながら、ふと視界の中に違和感を感じた。
それが何か、真琴はすぐに悟った。
祐一の目の前にあったはずの氷の刃が消え去っているのである。
どこに行ったかは目の前の風をよく見れば一目瞭然だった。
風によって粉々に砕け散った氷の刃がきらきらと光を反射している。
真琴:「・・・しまっ」
祐一:「遅いっ!!」
真琴が化鈴を掲げるより早く、祐一は鎌鼬の渦を消し去る。
風によって勢いをつけられた氷の粒が祐一を中心に四方八方に飛び散る。
氷の粒が触れた瞬間、即座に氷の浸食が始まる。
辺りの景色一面が氷の彫像となるまでにさほどの時間は掛からなかった。
その景色の中に真琴の姿もあった。
化鈴を掲げたままの姿で凍て付いてしまっている。
だが、その化鈴もすぐに消え去った。
祐一:「ふぅ・・・勝った・・・のか・・・」
膝をついたまま、祐一は深く息を吐くとそのまま倒れ込んだ。
祐一が意識を失う瞬間、どこからともなく人影が現れた。
樹木の影によって顔は見えないが、服装からして少女だろう。
誰だ・・・?
祐一は考える間の無く、すぐに意識を失ってしまった。
少女は気を失った祐一と真琴を重そうに引きずりながら、森の奥深くへと進路を取った。
祐一が意識を失った途端、周りの景色は銀白色から元の姿へと返っていた。
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