祐一:「よっとっ!!」
祐一は計13枚目となるトランプ、クラブの5を右の跳び蹴りで踏み倒す。
そのスキに背後から剣を構え迫ってくるスペードの7を、瞬時に振り向き胴を薙ぐ。
祐一:「ふぅ・・・終了っと。 なんだか部隊を組んで襲ってくるやつが増えたな・・・」
今、祐一と戦闘をしていたのはスペードの7、スペードの5,クラブの5、クラブの4、スペードの3の組み合わせ。
武器はスペードの7だけがマークを長く伸ばしたような剣、後はそれぞれのマークが刃になった槍である。
マークのままならクラブの刃は切れそうに無いのだが、クラブの丸いはずの葉の部分が菱形をしている。
よって、武器としてはクラブが一番強力となっている。
ハートも二股の菱形が結合したような形になっており、スペード、ダイヤはそれぞれの形を保っている。
祐一が森を歩き続けて10分足らず、自身は正確な現在地は分らないがカードの数字が増えていることから大体の予想はついていた。
祐一:「大抵このタイプのゲームってボスに近くなるほど敵モンスターが強くなるんだよな」
祐一はそう呟きながら再び歩き出した。
同時刻、香里は・・・
香里:「はぁっ!!」
ハートの9の顔面に拳が突き刺さる。
そのハートの9の腹を突き破り、ダイヤのJの剣が香里を襲う。
Jは西洋の騎士のような甲冑を身に纏い、金の髪、整った顔立ちをしている。
香里はその場で大きく飛び上がり、目の前のダイヤのJの顎に右のトゥキックをめり込ませる。
辺りに再び静寂が訪れる。
香里は額の汗を拭いながら、辺りを見回す。
香里:「・・・とりあえず、終了・・・かしらね」
呟きながら香里は目の前を見つめる。
森はそこで途絶えており、その先には大きな城が見える。
香里:「さて・・・あそこには誰がいるのかしら♪」
香里は嬉しそうに声を上げると駆け足で城へと向かった。
難なく城に辿り着いた香里の第一声。
香里:「雨が降ったら大変ね・・・」
上を見上げると、天井がない。
城壁のみの城は侵入者を拒むことなく、すんなりと王の間へ辿り着いた。
香里:「・・・って言うか、王の間しかないのね」
門をくぐった途端、床には赤の絨毯、香里の目線の先には豪華な装飾のなされた王座、
そこにふんぞり返っているいかにも性格の悪そうな女王の姿があった。
その脇には身ほどもある大きな時計を持ったメガネ兎の姿もある。
女王:「衛兵どもはな〜ぁにをやってるんだいっ!! こんな小娘、早く放り出しなっ!!」
甲高い声を上げ、女王が喚く。
すると、女王の前にハート、スペードのJ、クラブ、ダイヤのQとスペードのKが煙と共に現れる。
クラブとダイヤのQは槍、ハートとスペードのJ、Kはそれぞれ剣を持ち、香里に襲いかかる。
兎は女王の傍を行ったり来たり、右往左往している。
香里:「・・・美坂香里流格闘術・・・
2体のQの突きをバク宙で回避、着地と同時に香里とダイヤ、クラブのQとの間に閃光が奔る。
元から何も無かったかのように2体のQは消滅する。
ちなみに、どちらのQもスタイルは良く、美人であった。
2体が消滅した瞬間、香里の左右からJが躍り出る。
両の剣を両腕の凛恋で受け止めると香里はその場でバク宙。
足首を両のJの首にかけ、体重と共に落とす。
トドメにJの首を地面と脛で挟み、折る。
香里:「美坂香里流蹴術・・・
香里はJが消えたことを確認すると、立ち上がる。
目の前にはKが剣を構え、佇んでいる。
頭には大きな金の王冠、その影に隠れて顔は見えないが、そこまで年をとっている風には見えない。
手にはスペードの剣をだらしなく下げている。
香里:「・・・あなたで最後ね」
香里は何も言わぬKを前に構える。
Kは俯いた状態で何やらぶつぶつと呟いている。
K:「・・・風・・・に身を・・・兎は・・・」
香里:「何をぶつぶつ言ってるのか知らないけど・・・すぐに終わらせてあげるわっ」
香里はそう叫ぶとKに向かって一直線に走り出す。
狙いは首、香里は動かないKに拳を叩き付けようと腕を繰り出す。
だが、あと首まで数cmというところでKの口が動いた。
K:「・・・舞い踊らん」
抑揚のない声と共にKを中心として風が荒れ狂う。
白い雪の結晶が城壁を根こそぎ薙ぎ払う。
香里:「くっ!?」
香里は持ち前の運動神経と反射神経でどうにか風の渦から飛び出した。
だが、致命傷とはならなかったものの肩や足に軽く切り傷が作られていた。
香里:「あれは・・・相沢くんの・・・」
秋子:「ふふ・・・そうです。 スペードのKは祐一さんのデータを元に作られてますから」
秋子の声が崩れ落ちる城の中から響いてくる。
濛々とした煙の中、Kが姿を現す。
そして、その後ろには女王と兎・・・
香里:「名雪のお母さんっ!?」
秋子:「当たりです」
なんと、女王はドレスを着た秋子に、兎はうさ耳装着の舞へと変化していた。
もちろん2人はそれぞれの獲物、美影と鎮を携えている。
香里:「な、何してるんですか、2人ともっ!!」
すでに間に佇んでいるKのことは頭から離れている香里は2人に対して叫ぶ。
秋子:「いえ、なんだか楽しそうだったもので、つい」
舞:「はちみつくまさん」
香里:「だ、だからって・・・」
秋子:「気を付けてください、香里さん」
秋子の声に一歩下がった香里の鼻先をKの剣先がかすめる。
体勢を崩した香里に追い打ちをかけるようにKの右足が脇腹を抉る。
勢いよく吹き飛ぶ香里。
香里:「かはぁっ・・・ま、全く・・・重い一撃ね・・・」
香里は荒く息を吐きながら考えをまとめる。
香里:(今、この場であの3人を相手にするなんて絶対に無理っ!! ・・・となると選択は1つ)
Kの動きを注意深く観察しながら香里は森への道を戻る。
しばらく走り続けたがKが追ってくる気配はない。
香里は大きな木の根本で、体を休める為に腰を下ろした。
同時刻、祐一・・・
佐祐理:「ぴんぽんぱんぽ〜んっ♪↑ あはは〜、佐祐理にゅ〜すの時間です〜。
ただ今、祐一さんvs香里さんの対戦に、秋子さん、舞、あゆちゃん、真琴ちゃん、美汐さん、他1名が参戦しました〜。
ですが、祐一さんか香里さんのお互いどちらかが倒れればゲーム終了なのは変わりませんよ〜。
あと、秋子さんと舞が守ってる紅い宝玉を獲得した場合も獲得した方の勝利となります〜。
新しく参戦した方は祐一さんか香里さんのどちらかを倒せば、1週間好きなもの食べ放題です、がんばってくださいね〜。
これで佐祐理にゅ〜すの時間を終わります〜♪ ぴんぽんぱんぽ〜ん↓」
祐一:「は、はは・・・嘘だろ・・・秋子さんと舞が守ってるものを盗れるはずないだろ・・・」
クラブの8を袈裟懸けに切り裂いた祐一は大きなため息を吐き出す。
先ほどからお茶会に招待されたり、小さくなったり大きくなったり、不思議の国を満喫している祐一。
カード番号が8になっていることから城には近づいているはずなのだが、その影はいっこうに見えることがない。
祐一:「ったく・・・そろそろ疲れてきたぞ」
真琴:「祐一っ、覚悟ーっ!!」
祐一:「よっ・・・と」
ずざざざあぁぁああぁぁー・・・
祐一の背後から飛びかかってきた真琴は祐一が横へ移動したことで人類史上稀に見る顔面ヘッドスライディングを修得したのだった。
美汐:「ま、真琴っ・・・大丈夫ですか?」
あゆ:「うぐぅ・・・痛そうなんてもんじゃないよ・・・」
美汐が茂みから、あゆが木の上から真琴の様子を見に姿を現しました。
当の真琴は、地面を掘り返したかのような土砂に顔を埋もれさせじたばたと藻掻いています。
あゆ&美汐:「せ〜のっ!!」
あゆと美汐は力を合わせ、大きな真琴を掘り出しました。
めでたしめでたし・・・
祐一:「んじゃ、俺はこの辺で・・・」
真琴:「逃げるなーっ!!」
何処から出したのか、紙芝居を片付け、自転車に跨った祐一の背後に化鈴の刃が迫る。
祐一:「ふっ・・・甘ーいっ!! 友情バリアーっ!!!」
北川:「へぶっ!!」
情けない声を出して北川は化鈴の刃を腹に直撃させる。
祐一はこれまた何処から出したか不明な北川を投げ捨てると、何処から出したか不明な自転車をこぎだした。
祐一は最後に一言・・・
祐一:「北川・・・お前のことは忘れた・・・勝ってもお前に分け前はやらんからな・・・」
そう言って走り去ってしまった。
だが、その奔走も長くはならなかった。
祐一:「うおっ!!」
ずざざざあぁぁああぁぁー・・・
整備もされていない森の中、自転車で走る祐一は木の根にぶつかり、見事に転けた。
真琴に続いて第2の顔面ヘッドスライダーとなってしまったのだ。
当然のごとく、顔は埋まって抜け出せない。
必死で抜け出そうと努力する様は間抜けの一言に尽きる。
そうこうしているうちに、美汐に発見されてしまった。
美汐:「さて、相沢さん・・・私の『相沢さんと真琴、セットでお得ですね、食べ放題キャンペーン実施中』の為・・・死んで貰いますっ!!」
祐一の背後、いつにも増して嬉しそうな美汐の声が祐一の耳に入る。
内容がとても危ない気がするのは気のせいだろう。
祐一:「な、なんだよっ、それはっ!!」
土の中で発した声は地上ではくぐもって聞こえ、美汐の耳には本来の意味とは全く異なったことに聞こえたようだ。
おそらく地上でまともに話していても今の暴走美汐ちゃんには異なって聞こえるだろうが・・・
美汐:「そんなにも喜ばないでください♪/// さて、では・・・いただきます♪」
美汐は嬉しそうに華詩を振り上げる。
祐一:「ちょ、ちょっと待てーっ!! ・・・雪によって隔離された想いっ!!」
祐一の心臓目掛けて振り下ろされる刃。
だが、その刃は心臓に届くことはなかった。
雪が祐一の周りに降り積もる。
その雪は華詩の刃を弾くほどに強靱な鎧となる。
だが、1つだけ欠点があった。
それは・・・
祐一:「・・・寒い・・・っていうか、このままじゃ死ぬっ!! 早く次の手を考えないと・・・」
祐一は土に頭を突っ込み、その上から雪で覆われているといういかにも奇妙な格好で頭をフル回転させていた。
美汐:「・・・残念ですね、相沢さん。 恥ずかしがらなくてもいいんですよ?」
美汐がそんなことを呟きながら華詩を下ろし真琴とあゆの到着を待つ。
しばらくしてあゆと真琴がとことこと走ってくる。
真琴:「あう〜、美汐速い〜」
あゆ:「ほ、本当に速いよ・・・」
ゼイゼイと息を吐きながら交互に不満を唱えるあゆと真琴。
美汐:「すみません・・・何せ真琴と祐一さんの食べ放題が待ってるんですから・・・」
真琴:「? 美汐、何か言った?」
真琴が美汐の顔を見上げながら近づいてくる。
美汐:「イエ・・・ナンデモアリマセンヨ・・・」
美汐は何かの衝動を必死に抑えるかのように身体を震わせ、拳を固く握っている。
真琴はそう?と考える素振りをみせたが、一応納得したらしく、あゆの立っている祐一の埋まっている場所へ向かう。
美汐:「ふふ・・・今に貴女は私のものになるんですよ・・・相沢さんと一緒に・・・」
真琴の後ろ姿を見つめながら、美汐は常人が見れば確実に退くと思われる笑みを浮かべた。
あゆ:「美汐ちゃん?」
美汐:「なんですか? あゆさん」
美汐は何もなかったかのような素振りであゆへ返答を返す。
あゆは何も気付いておらず、普通に話しかける。
話を聞くと、埋まった祐一をどうしようかということらしい。
華詩の刃をも受け付けない、あゆと真琴がそれぞれ幸夜と化鈴で斬り付けてみるが当然のごとくビクともしない。
美汐はあることを思い出し、ぽつりと口を開く。
美汐:「あゆさんのあれなら・・・」
あれというのは前回、城の中で見せた電撃の羽である。
あの後、あゆにあの時のことを問いかけると、何も覚えていないとのことだった。
覚えていないことを期待するのはあまりにも無茶だが、あの力があゆにあることも事実である。
そう考えた美汐はあゆに尋ねてみようと思い口を開こうとした。
が・・・
美汐:「あゆさん、電気・・・・」
あの時のことがふつふつと頭の中に蘇る。
破壊された無惨な姿へと変貌を遂げたシャンデリア、崩れ落ちる城の内壁・・・
見るとあゆが頭に?を浮かべたままこちらを見ている。
美汐:「・・・いえ、何でもありません」
あの時の災害を繰り返すことはない・・・それに・・・
あゆさんが相沢さんを倒してしまっては私の計画に狂いが生じますからね♪
考え直した美汐はあゆ、真琴と共に祐一を掘り出す計画を考え始めた。
その頃、埋もれた祐一は・・・
祐一:「・・・詞を解除すればあいつらに捕まるだろうし・・・だからといってこのままで後何分保つか・・・」
キィン、キィンと刃物が雪に跳ね返る音が断続的に続く中、祐一が出した答えは・・・
祐一:「・・・白雪、頼むっ・・・」
よく考えた末、『白雪に頭を下げ、何とかしてもらう作戦』にでた祐一。
白雪も寒さに耐えきれなかったのだろうか、祐一の頭の中に詞が流れ出す。
「・・・雪が溶ける。 時は巡り、再び寒冷なる季節へ。 雪も再び蘇らん・・・」
祐一は聞こえてくる心地よい詞にしばし耳を傾ける。
そして同じように詞を奏でる。
祐一:「・・・雪が溶ける。 時は巡り、再び寒冷なる季節へ。 雪も再び蘇らんっ・・・!!」
「・・・少し痛いかもしれないですの・・・」
祐一:「へ?」
白雪と思しき声が聞こえた。
途端、祐一の身体の感覚が無くなる。
だがその感覚は一瞬間だけで、よく周りを見るとそこは森の上だった。
祐一:「・・・飛んでる・・・?」
いや、正確には落ちていた。
祐一:「ち、ちょっと待てぇぇええぇぇえぇぇぇぇぇっ!!」
訳も分からず突然空中に現れた祐一は、大声を上げながら重力に従い一直線に森へと落下する。
盛大な音を上げ、木々の間を落ちていく。
祐一:「白き風・・・じゃないっ、兎が〜、えぇっとっ、なんだったっ!? ・・・そうだっ、風の流れに身をゆだね、白き兎は舞い踊らんっ!!!」
地面衝突2秒前、風が祐一の身体を覆い、荒れ狂う。
だが詞が遅すぎたのか速度が付きすぎていたのか、全落下速度を消し去ることは出来ず、地面に強い衝撃と共に叩き付けられる。
肺の空気を全て吐き出し、目の前が黒く染まった。
だが、祐一は起きあがる。
それほど離れていない場所からあゆ、真琴、美汐の自分を捜す声が聞こえたからだ。
祐一:「・・・何処か・・・隠れる場所・・・」
そう言って、白雪を杖代わりに、祐一はよろよろと歩き出した。
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