名雪:「うにゅ〜・・・眠いんだお〜・・・」
名雪は既に閉じている目蓋を擦りながら呟く。
香里:「・・・もう寝てるんじゃないの? あなた・・・」
そう言って、ベッド脇に座った香里は呆れたようにため息を吐き出す。
現在時刻は夜の8時を少し廻ったところ・・・
名雪はすでに夢の中、一緒に部屋に入ってきた栞はと言うと・・・
栞:「えうぅぅ〜、おねぇちゃぁあぁん〜」
・・・名雪の腕の中で安らかな眠りについていた。
栞:「えうぅぅぅぅぅ〜、私は眠ってませんし、あんまり安らかでもありません〜」
栞はそう言って名雪の腕から逃れようと藻掻くが、眠りに落ちた名雪は何処かの鉄腕ロボに匹敵する10万馬力の力を発揮する。
当然、病弱色白胸無し笑女である栞の力ではビクともしない。
栞:「胸無し胸無しってそればっかりじゃないですかっ!! それに笑女ってなんですかっ!?
私は北川さんみたいにお笑いキャラじゃありませんっ!!」
栞はそう叫びながら身を悶えさせるが、名雪の手はそれを上手い具合に阻み続ける。
その名雪の手が、ある場所で止まった。
栞は一瞬ぴくりと身体を震わせると、動きを止めた。
しばらくの間、その場でじっとしていた名雪の手がその滑らかな丘・・・と言うより少し盛り上がった平地を突然揉み出した。
栞は突然の事に驚き、顔を赤らめる。
栞:「・・・んっ・・・ちょっ・・・名雪さっ・・・やめっ・・・っ!?」
香里:「あ、そうそう。 名雪って寝て抱きついた娘の胸を揉みしだく癖があるの、気を付けてね」
涼しい顔でベッドの端に腰掛けている香里は、雑誌を読みながら、栞にそう忠告する。
甘い声を紡ぐ栞は涙目になりながら非情な姉に抗議の台詞を言い放つ。
栞:「そ、そういうことあっ・・・早くぅっ・・・言ってぇっっ!!」
栞の悲鳴が夜の水瀬家を揺らす。
当然、この声は名雪の部屋の前で様子を窺おうと身を潜め、声に耳を傾けていた祐一と北川にも伝わっていた。
北川:「・・・相沢っ、聞いたか今のっ!!」
北川は鼻息も荒く、祐一に顔を近づける。
祐一は少々後退りながらも、北川同様鼻息荒く、目は爛々と欲望という光に輝いている。
祐一:「聞いたともっ、『早く逝って』とは・・・なかなか」
祐一と北川の頭の中に卑猥な妄想が次々と膨れ上がる。
2人の目は半分あっちの世界へ向かっていた。
だが、次の香里の言葉でこちらの世界へ帰還せざるを得なくなってしまった。
香里:「あ〜、あと、そこの扉の後ろで聞き耳立ててるあんた達。 入ってきたら・・・殺すわよ」
今まさに扉に手を掛けようとしていた北川と祐一は身体を硬直させた。
冷や汗が頬を濡らす。
階下のリビングで皆が談笑する声が嫌に遠く聞こえる。
そのままの状態で数十秒、北川がゆっくりと口を開いた。
北川:「・・・ここで引き下がったら男じゃないよな」
北川のその言葉に祐一は待ってましたとばかりに顔に笑みを浮かべる。
祐一:「・・・共に往かんっ、未知の大地へっ!!」
ドアノブの上に北川、祐一の両名は仲良く手を置き、勢いよく未知への扉を開け放った。
香里:「美坂香里流拳術、津波っっ!!」
祐一:「・・・ふっ、甘いっ!! 北川バリアーっっ!!!」
北川:「な、なにぼっげっっらっっっぱっっっっ!!?」
扉を開けた瞬間、目の前に立ちはだかる香里を目にした祐一は瞬時に北川を前に引きずり出した。
香里の流れるような腹に右肘、顔面に右裏拳、腹に左膝までの連携、
そして最後にトドメの右の飛び後ろ回し蹴りが見事に北川の顔側面に命中したのだった。
香里:「・・・ふっ、よくかわしたわね・・・」
香里が冷たい笑みを浮かべ、祐一に賞賛の意を表す。
その手の中の北川には微塵も興味を示していない。
祐一:「・・・俺は友情という名の頑強な盾を持っている。 そんな攻撃は効かない」
手に持っていた北川の肉体を後ろに投げ捨て、祐一は悠然と言い切る。
ぼろぼろになった北川の身体は、宙を舞い階段から転げ落ちていくが全員が無視である。
祐一の視線の先には香里となにやら悶え苦しんでいる栞、その元凶となる名雪の姿が目に入る。
たびたび栞の甘い声が耳に入り、目線がそちらへ向かうが、香里への注意も忘れない。
香里がそんな祐一の目の前に金色のペンダントをちらつかせる。
香里:「相沢くん、私と勝負して勝てたらあの2人を好きにして良いわよ」
祐一:「何っ!? セット価格でお得なのかっ!?」
香里の突然の申し出に意味の分からない言葉を発する祐一。
香里:「そうよ、セット価格でお得なのよ。 今なら階下の娘を1人付けしまして〜、このお値段っ!!」
バンッという効果音と共に香里がボードをどこからともなく取り出し掲げる。
それには『真剣勝負、勝ったらお楽しみ♪』と書かれていた。
祐一:「よしっ!! その勝負、乗ったっ!!」
香里:「その代わり、負けたら相沢くん、みんなに百花屋で際限なく奢って貰うわね♪」
香里は笑顔で恐ろしいことを曰うが、勝利の後の光景を想像(妄想)中の今の祐一の耳には入っていない。
香里はジーンズの中に潜ませてあったカセットテープを止める。
それを名雪の机の上に置き、言った。
香里:「さてと・・・行きましょうか、決戦の舞台へ」
あゆ:「それにしても・・・元気だね、2人とも」
あゆが呆れたような驚いたような声を上げる。
現時刻は9:00p.m. 名雪と栞は部屋でお楽しみ中
だが、他の面々は再びこの闘技場に集まってきている。
北川:「相沢ーっ!! ファイトーっっ!!」
北川が声を張り上げてエールを送る。
祐一が勝ったときのお楽しみに乱入する気が満々と溢れている。
他の面々がこの賭の話を聞いたとき
あゆの場合・・・
あゆ:「うぐぅっ!? そ、そんなのダメだよっ!! でも、ボク1人なら・・・」
・・・などと言って赤面。
真琴&美汐の場合は・・・
真琴:「あう〜? 一晩中遊べるんだっ♪」
美汐:「・・・真琴と相沢さん・・・どちらでも・・・むしろセットで♪」
・・・などと真琴はあまり意味を理解しておらず、美汐に至っては暴走してしまった。
舞&佐祐理の場合・・・
舞:「・・・///」
佐祐理:「あはは〜、楽しみだね〜♪」
・・・いつもと大して変わりはなかった。
秋子の場合・・・?
秋子:「あらあら、それじゃあ名雪のお父さんになっちゃいますね」
・・・準備万端のようである・・・
とまあ、他の面々はどちらが勝ってもいいようだ。
むしろ祐一の勝利を願う者の方が多い。
そんな中、祐一と香里はそれぞれ獲物を現す。
祐一:「彼の者、白の大地に降りそそぐ、冷厳なる雪の冷たさを知らんっ!!」
香里:「凛とす横顔、内に秘めたる恋心・・・現に出せぬこの思い」
祐一と香里の声が同時に闘技場内に響き渡る。
祐一の目の前には雪を纏い、白く輝く白雪が、香里の手にはすでに鈍く光る凛恋が装着されていた。
秋子:「あら、香里さんも詞を・・・それに・・・」
そう呟くと秋子は祐一に目を向け、軽く微笑んだ。
祐一:「・・・なあ、香里」
香里:「何? 相沢くん」
ウォーミングアップに軽く拳を流していた香里は目だけで祐一を捉える。
祐一:「・・・それ・・・変わってないか?」
祐一は香里の腕を指さし、問いかける。
その指の先、香里の腕に装着された凛恋は、どう見ても食事中、皆から聞いた話と明らかに異なっている。
第1に、でかい。 第2に、なんだかちょっと紅い。 第3に、覆われている範囲が肘までに(ただし手首の辺りは動かしやすいよう装甲が無い)
全体的に金色に赤を少し混ぜたような色になっており、肘の辺りにちょっとした角が付いている。
刃は前とほぼ同様で香里の拳から少々出る程度の長さだ。
香里:「変わってるわね」
香里は少し凛恋を見つめた後、祐一の疑問に当然の事のように答える。
秋子:「そういえば言ってませんでしたね。 皆さんの武器はそれぞれ成長するんですよ」
秋子は微笑みながらそう言う。
その言葉に祐一は渇いた笑みを浮かべることしか出来なかった。
香里:「それじゃあ、そろそろ殺りましょうか・・・」
振り向くと香里はウォーミングアップを終え、構えていた。
祐一:「・・・俺の白雪・・・成長しないのか・・・?」
祐一は白雪を掴むとまじまじと見つめる。
秋子:「変わってますよ、ちゃんと」
秋子は誰にも聞こえないほどの声でそっと呟く。
見る限り変わった様子のない白雪を振りながら祐一は首を傾げていた。
秋子:「・・・さて、始めましょうか」
秋子はパソコンで少し作業をし、Enterを押す。
秋子:「・・・面白くなりそうです」
祐一:「・・・何なんでしょうか・・・このメルヘ〜ンな世界は・・・」
祐一は辺りをぐるっと見回してみる。
森の中。
川のせせらぎや鳥の声。
そして木、花、キノコ、太陽・・・全部顔があった。
よく見てみるとトランプの兵隊・・・?
祐一:「・・・不思議の国の・・・アリス・・・?」
ため息をつきそうになる祐一に、トランプが手の槍を構え猛然と向かってくる。
祐一は咄嗟に身体を右へ倒し、左足でトランプの顔を蹴り上げる。
トランプはひっくり返ると姿を消した。
祐一:「・・・な、なんで襲ってくるっ!?」
秋子:「今回はお二人だけなのでCPUも入れてみました。 トランプの兵は敵ですので気を付けてください。
どちらかが倒れればゲーム終了なのは変わりないですからね」
秋子の声が遠くから響く。
後ろではあゆや真琴が可愛いなどと言って騒いでいる。
秋子:「ゲーム中に存在する敵は54枚、1枚消えれば、また新たに1枚追加されます。
あと、見ればわかると思いますが・・・ジョーカー。 それだけは消えませんので気を付けてください。
出会った場合は逃げるしかありません」
秋子の説明に耳を傾けていた祐一はふと辺りを見回してみる。
ジョーカーらしき影は見あたらない。
ひとまず、ほっと胸をなで下ろしたのも束の間、トランプが再びやっていた。
祐一:「前のはハートの2・・・今度はダイヤの3・・・もしかして・・・」
祐一は冷や汗を流しつつ、考えを口に出す。
剣は正眼に構えたままだ。
秋子:「おそらく正解ですね、祐一さん。 その子たちは番号順に強くなってます。
ジョーカー・A・K・Q・J・・・ スートでは スペード・ハート・ダイヤ・クラブ の順で強くなってます」
秋子の話が終わった瞬間、ダイヤの3は槍を構え突進。
その槍を白雪で薙ぎうと同時に左の蹴りを叩き込む。
ダイヤの3は倒れると、先ほどと同じように姿を消した。
祐一:「・・・強いことはない・・・が、体力が持つかな。 早いとこ香里を倒さないと・・・」
そう呟くと祐一は森の中を歩き出した。
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