ギィッンッ!!
激しい音を立て、剣と剣がぶつかり合う。
そのまま2人はしばらくの間、硬直する。
祐一はここぞとばかりに腕に力を込め、舞を鎮ごと叩き斬ろうとする。
祐一:「くっ・・・な、なぁ、舞?」
にこやかな表情の端々に苦々しい表情を見え隠れさせながら舞に話しかける。
それに対し、舞がいつもの表情、いつもの態度で返してくる。
舞:「・・・何?」
祐一:「・・・なんで俺の方が押されてるんだ?」
腕が震えるほどに力を込めた祐一の白雪を舞は素の表情で軽々と押し返してきていた。
そして白雪が今まさに祐一の鼻先を掠めようとしている。
慌てて祐一は後ろへ飛び退く。
支えを無くした舞は剣を下まで振り下ろすことになる。
祐一は一瞬、舞が無防備になったことを見逃さなかった。
祐一:「そこだっ!!」
大上段、大きく振り下ろす剣が舞の後頭部を襲う。
だが、祐一の剣が舞に当たる直前、何かが剣の軌道を逸らした。
祐一は体勢を立て直しながら舞を見る。
祐一:(・・・? 舞が・・・2人・・・?)
目を擦り、よく見てみる。
だが、舞は舞、1人しかいない。
舞:「・・・どうかしたの・・・?」
舞が額の汗を拭いながら問いかけてくる。
祐一:「・・・いや・・・」
祐一は頭を横に振り、考えを捨て去る。
今は目の前の舞を倒すことだけに集中すればいい。
舞:「・・・次で・・・決めるっ!!」
舞が地面を勢いよく蹴り、祐一に瞬時に迫る。
祐一は白雪を構え直し、鎮との鍔迫り合いに持っていこうと考え、一歩前に出た。
いや、足は動いてはいない。
それどころか祐一の身体だけ時間が止まったかのように指一本動かすことが出来ない。
祐一:『なっ!?』
驚きに声を上げたが、そんな声さえも口から漏れることはない。
舞:「・・・川澄流・・・」
目の前の剣を持った死に神が死を告げる詞を説く。
舞が目の前に立っているのに身動き1つしない祐一を不思議に思い、美汐が叫ぶ。
美汐:「あ、相沢さんっ!? 何をやっ・・・」
舞:「・・・
ザシュウゥゥッ!!
祐一の時間が再び動き出すかのように・・・白い屋根を紅く染めながら、祐一は倒れた。
美汐:「相沢さんっ!!」
祐一に駆け寄る美汐。
舞:「・・・ぐっ・・・」
舞は膝をつき、剣を支えに肩で息をする。
尋常ではない汗の量と時折見せる苦々しげな表情が、舞のダメージを物語っていた。
美汐は倒れている祐一を両手で抱き起こし、傷を確かめる。
傷は深く、紅く生暖かい血液が溢れ出していた。
だが、その傷もすぐ消えて無くなる。
倒れた祐一の手にはしっかりと雪の結晶が握られていた。
美汐:「・・・川澄先輩・・・」
安堵の息と共に、憤怒の感情が美汐の心に浮かび上がる。
仕方ないことだとは分かっていたが、こればかりはどうしようもない。
罵声を浴びせかけることも出来るだろうが、美汐はあえて、華詩を舞に向けて構える。
美汐:「・・・殺らせていただきます」
膝をついていた舞は上方から迫る鎌の刃を避けるため後方へ。
下がる間に、見る限り速度の落ちている剣が美汐の咽先を掠める。
舞:「ハァ・・・ハァ・・・美汐・・・あなたも・・・すぐに終わらせる・・・」
立ち上がった舞は苦しげに、だがはっきりとそう言いきる。
その言葉に威圧に美汐は全身の筋肉が強張るのを感じた。
腐っても鯛、弱っても舞。
美汐は心の中で自身に言い聞かせ、先ほどの怒りに任せた攻撃を反省する。
冷静に・・・
美汐:「・・・私は負けません」
自分に言い聞かせる意味も持った言葉を舞に向けて放つ。
舞が少し微笑んだように見えた。
その後見たときにはいつもの無表情にもどっていたが。
舞:「・・・姿を消す力も残っていない・・・仕方ない」
舞はそう呟き、目を閉じる。
次の瞬間、美汐は目を疑った。
子供だ・・・頭から長く伸びるのは兎の耳、手には稲穂だろうか。
小さな少女が、舞の隣に静かに浮かんでいた。
舞:「まい・・・もう少しで終わるから・・・」
舞が『まい』と呼んだ少女の頭を撫でながら囁く。
その顔はいつもは滅多に見せない微笑みを浮かべていた。
舞:「・・・だから・・・何とか保って・・・」
まいは舞の言葉にこくりと頷く。
そして、美汐へ向かうモーションをしたかと思うと、すぐに姿を消した。
美汐:「・・・なっ」
まい:“こっちだよ”
頭に直接響く声。
テレパシーとでも言うのだろうか。
美汐は前の舞を見つめたまま、背後の気配に注意を払う。
まいは美汐の肩から顔を出すと、子供の見せる純粋な笑顔を見せる。
まい:“ちょっとの間だけだから・・・”
その顔が急に険しくなったので何かと思い、声を掛けようとする。
だが・・・
美汐:『声が・・・出ない・・・!?』
口を動かそうとするが、その行為は思考の上でのみしか作動せず、神経回路が命令を伝達することを拒んだかのようだった。
まい:“・・・ごめんね”
そう言ってまいは消える。
美汐はなんとか動こうと努力してみるが、どうにもならない。
目の前に舞が立つ。
その傍らにはまいの姿もあった。
舞:「ハァ・・・ハァ・・・これで・・・終わり・・・」
顔面蒼白、息も切れ切れの舞が鎮を振りかぶる。
その剣が・・・美汐に向けて振り下ろされた・・・
秋子:「・・・ゲームセットですか。 システム・・・all down確認 皆さん、お疲れさまです」
秋子の労いの言葉と共に、城が消え去る。
各々が先ほどまでと同じ形でその場に残る。
祐一:「・・・終わったみたいだな」
祐一が自分の腹をさすりながら辺りを見渡す。
座り込んでいる佐祐理、横たわって寝息を立てているあゆ、無表情に立ちつくしている舞、隣で起きあがった美汐・・・
祐一:「全員戻ってきたみたいだな」
北川:「・・・今、俺のこと忘れてなかったか?」
・・・遠くに見えるあの光は何だろう・・・?
北川は遠くを見つめる祐一を見ると、その場で座り込んでしまう。
北川:「どうせ俺なんか・・・」
何も聞こえないふりを続ける祐一。
美汐:「負けてしまいましたか・・・残念です」
そんな北川は放って置いて、声に振り向くと、美汐が肩を落としながら呟きながら向かってくる。
祐一:「ま、しょうがないさ。 別に負けたからどうってわけでもないしな」
そう言って、祐一は右手を左手で引っ張り、大きく伸びをする。
祐一:「さてっ・・・と、これからどうする?」
祐一は辺りを見回しながら、誰にともなく話しかける。
秋子:「そろそろ晩ご飯にしましょうか」
皆が声の方を向く。
秋子がとことことこちらへ向かって歩いてくるところだ。
秋子:「宜しいですか? 祐一さん」
秋子は朗らかな笑みを浮かべながら祐一に尋ねる。
祐一は大きく口を開けたまま、無言でこくりと頷く。
秋子:「では、用意をしてきますね」
秋子はそう言うと、寝ているあゆを栞の背に乗せた。
その栞は真琴の、その真琴は名雪の、名雪は香里の、香里は秋子の背にそれぞれ背負われている。
後ろから見れば、連なった少女達の死屍が小高い山のようにも見える。
秋子はそれらを軽々と背負い、扉をくぐった。
全員:「・・・すごい」
秋子が立ち去って第一声、皆がハモリながらそう呟いた。
全員:「・・・秋子さんだし」
こればかりは皆の気持ちが異なることはなかった。
舞の能力については、誰も何も聞くことをしなかった。
秋子:「食事の用意、できましたよ」
秋子の声が水瀬家に響き渡る。
自室で休んでいた祐一はゆったりとした動作でベッドから降り、リビングへと向かう。
祐一は1つ、昔のことを思い返していた。
祐一:「ただいま」
秋子:「おかえりなさい、祐一さん。 あら、その娘・・・」
祐一:「ああ、こいつは・・・」
秋子:「大きなおでん種ですね。 そんなに大きなお鍋あったかしら」
・・・あれは本気だったのだろうか?
答えの出ない問いを頭の中でリピートし続ける。
だが、リビングの扉を開け中へはいると、そこには鍋がぐつぐつ煮えていた。
普通のサイズだ、落ち着け・・・出汁なんて採れるはずないだろ と考えを落ち着かせ祐一は胸に手を置き呼吸を整える。
名雪:「ふぁ〜、気持ちよかったよ〜♪」
祐一の背後から名雪の声が聞こえてくる。
振り返ると、名雪だけではなく、香里、栞、あゆ、真琴も一緒だ。
皆、湯気を立ち上らせながら、気持ちよさそうにそれぞれのパジャマに身を包んでいる。
・・・出汁なんて採れない・・・よな・・・
それらが出てきたのは紛れもなく風呂場だった。
出汁・・・
名雪:「あっ、今日はお鍋だよ〜♪」
喜々としたした表情で皆がリビングへと入ってゆく。
祐一は部屋の外、またもや答えのでない問いを繰り返していた。
迷った末、結局食べた鍋の味は・・・少し甘い気がした。
結局、この日は皆、疲れ切った様子で早々とそれぞれが部屋へと入っていった。
当然、唯一の男部屋に北川が入ることとなる。
北川:「相沢ぁ、何かしようぜ」
北川が風呂上がりでも立ったままのアンテナをくるくる回し、怪しげな電波をキャッチしながら祐一に話しかける。
祐一はベッドの上で雑誌を読んでいたが、北川の声に眉をひそめ顔を上げる。
祐一:「何かって・・・何するんだよ?」
祐一の部屋にはこれといって遊ぶ物などは無かった。
だが、北川は待ってましたとばかりに立ち上がり、顔を近づけてくる。
祐一はその北川の顔に恐怖がこみ上げてくるのを感じた。
笑いを堪えながらゆっくりと近づいてくる北川を殴り飛ばしたいという衝動に何とか耐える。
やがて北川がこそこそと声を殺し、しゃべり出した。
北川:「やっぱ、こういうときは・・・夜這いだろ♪」
本当にろくなことを考えないやつだと思う。
だが、誰でも男なら一度は経験してみたいものだ。
祐一は少々考えた末・・・
祐一:「・・・やるか♪」
2人はお互いにんまりと笑い合うと行動へと移った。
水瀬家の夜は長い・・・
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