ある日のこと・・・

 祐一が自室で暇を弄んでいたとき、階下から秋子の呼ぶ声が聞こえた。

秋子:「祐一さん、ちょっといいですか?」

祐一:「あ、はい。 何ですか?」

 祐一は秋子に返事を返すと階下へと向かう。

 途中、真琴の部屋から激しい物音が聞こえてきた。

祐一:(そういえば今日は何かパーティを開くって真琴が言ってたっけ・・・)

 祐一はそんなことを考えながら秋子の待つリビングへ向かった。

秋子:「祐一さん、ごめんなさいね」

祐一:「あ、いえ、ちょうど暇でしたから・・・で、何ですか? ・・・お米ですか?」

 祐一はおそるおそる秋子に訊ねる。

 何故かこの水瀬家は米の消費量がやけに多い。

 まあ、育ち盛りの子供が4人(祐一、名雪、あゆ、真琴)もいれば普通の家庭よりは多くなるだろうが、一週間で米袋1つが無くなることはないだろう。

 秋子は笑みを浮かべ、祐一に何かを手渡した。

祐一:「これはっ!? ・・・何ですか?」

秋子:「ちょっと試して頂けませんか?」

 秋子が祐一に渡したのは雪の結晶の形をした直径2pほどのキーホルダーだった。

祐一:「え〜と・・・試せというのは・・・?」

 祐一はそれを目の高さまで上げ、見てみる。

 その材質は柔らかくもなく堅くもなく、光に当てるときらきらと七色に煌めいて見える。

秋子:「それを振ってみてもらえますか・・・シェイクするのではなく1振りするだけでいいんですよ」

祐一:(・・・ばれたか)

 秋子の言葉に祐一の動きが止まる。

 祐一は大人しくキーホルダーの輪に指を通し、腕を上から下へ思いっきり振った。

 次の瞬間、祐一の手には両刃の細身の剣が握られていた。

 細い刀身は雪のように白く、銀白色の柄は細部にわたって素晴らしい装飾がなされてあった。

祐一:(・・・まただよ・・・またなんだよ・・・どうして俺の回りではこんな突拍子もないことが続けて起こるんだ・・・

   これも奇跡か? ・・・奇跡のなせる技なのかっ!?)

   「で、これは何ですか?」

 心の中の葛藤を余所に祐一は冷静に秋子に訊ねた。

 秋子は無言で右腕を振るう。

 すると秋子の手にも何かが現れた。

祐一:「・・・」

秋子:「その剣、名は 白雪しらゆき です。 ちなみに私のほうは 美影みかげ と言います」

 秋子はいつもの屈託のない優しい笑顔を浮かべて言う。

 その手に握られているのは巨大なハルバート・・・長さはゆうに2mを越えている。

 その刃は黒く不気味に怪しい光を放っている。

 柄の末端に付いているのはガーネットだろうか、鈍い輝きは血のように赤い。

 だが、不思議と美しいとも感じる。

祐一:「・・・え〜と・・・な、何がしたいんですか・・・? 秋子さん・・・」

 額に汗を感じつつ祐一はなるべく友好的に話しかけた。

秋子:「ですから実験ですよ・・・ここでは辺りが散らかるので外にでましょうか」

 秋子はそう言うと祐一と巨大なハルバートを引き連れて外へと出た。

 外は春が近づいてきたとはいえ、まだ寒さを残していた。

 天候は晴れ、なんとも良い散歩日和だ。

 そんな中、祐一と秋子はまだ雪の残る道路でそれぞれ獲物を持ちながら対峙していた。

祐一:「え〜と・・・秋子さん?」

秋子:「では、行きます・・・」

 秋子は美影を軽々と振り回し、正面に構える。

 そしてそのまま祐一の咽目掛けて黒い刃を突き出す。

祐一:「なっ!?」

 祐一は正面に持っていた剣に偶然守られ、秋子の攻撃を受ける体勢になる。

 だが、秋子の力は思った以上に強く、そのまま後ろへ吹き飛ばされる。

 飛んだ祐一はコンクリートの塀に勢いよくぶつかる。

 その衝撃は祐一に命の危機が迫っていることを十分に知らしめさせた。

祐一:「くっ・・・あ、秋子・・・さん・・・なん・・・で・・・」

秋子:「言ったでしょう? 実験です」

 秋子は笑みを絶やさず、祐一を見つめ近づいてくる。

 祐一は剣を杖にしてやっとの思いで立ち上がった。

 背中からは焼けるような痛みと真っ赤な鮮血が溢れ出す。

 その痛みがこれが現実であることをはっきりさせる。

秋子:「本気で来ないと・・・死にますよ・・・」

 再び黒き刃が祐一を襲う。

祐一:(・・・やるしかない・・・か)

 だが、今度は祐一も黙って立っているだけではなかった。

 秋子の突きをしゃがんでかわすと同時に、左足をバネにし秋子に近づく。

 槍や斧はその性質上、懐に入れば攻撃は届かない。

 祐一はそのことを知ってか知らずか、どちらにしても祐一に有利な体勢に持ち込む。

祐一:「あぁぁぁっ!!」

 そのままの勢いで持っていた剣を下から上へ振り上げる。

 だが秋子はそのような弱点は百も承知、美影を手放すと同時に今度は左手を振るう。

 その瞬間、秋子の手に短剣が現れる。

 祐一の表情が驚愕に変わった。

秋子:「先を見ての行動・・・大事なことですね」

 秋子は祐一の飛び込みに対し、更に内へと潜り込む。

 肩で祐一をはじき飛ばすと同時に

 秋子は祐一の胸を一差し、短剣を引き抜きながら離れる。

 祐一はそのまま前のめりに倒れた。

 祐一の身体からはおびただしい量の血が・・・出なかった。

 祐一は上半身だけ起きあがり、刺された腹の辺りを探ってみるが何ともなかった。

 刺されたような傷も、壁にぶつかった痛みも何もかもが夢であったかのように消えて無くなっていた。

祐一:「な、なんともない・・・? 確かに刺されたはずなのに・・・?」

秋子:「祐一さん、すみません」

 祐一が振り向くとそこには秋子が手を頬に当てたいつものポーズで立っていた。

 手に持っていたはずの短剣や美影、祐一の白雪はいつの間にか消えていた。

祐一:「あ、秋子さん・・・なにがどうなっているのかさっぱり・・・」

秋子:「順を追って説明しますね。 祐一さんに渡したキーホルダー、あれはゲームの起動スイッチみたいな物なんです」

祐一:「ゲーム・・・ですか・・・?」

秋子:「はい。 2人以上のプレーヤーがあれを起動させた時点でゲームはスタートします。

   ゲームが始まると疑似空間・・・まぁ、ゲームの世界ですね・・・そこへと飛ぶわけです。

   疑似空間と言っても本当の世界と変わりませんし、他の人たちからプレーヤーはちゃんと見えてるんですよ。

   ・・・クリアの条件は相手に現実の世界で致命傷となる攻撃を与えることです。

   そうすればお互いのプレーヤーは現実へと帰還します。

   当然ですけど痛みや傷、壊れた物などはその場限りの物でゲームが終了すれば消えますから安心してください」

 祐一は秋子の説明を黙って聞いていた。

 だが、3つ疑問に思ったことがあった。

祐一:「あの〜、3つ、聞いても良いですか?」

秋子:「なんですか?」

祐一:「実験・・・って言ってましたよね、秋子さん」

 祐一は恐怖を覚えながらも秋子に訊ねた。

秋子:「あれは祐一さんを本気にさせたくてついた冗談です。

   完成してない物を人で試すなんてことはしませんよ。

   祐一さんは大切な家族なんですから・・・」

 秋子は笑顔でそう答えた。

祐一:「そう・・・ですか。 えっと、あと2つ・・・どうやってこんな物を作ったんですか? あと作った理由はなんなんですか?」

秋子:「企業秘密です」

祐一:「・・・はい、わかりました」

 祐一は大人しく引き下がった。

 秋子の手の平にいつの間にかあの『邪夢』が異様な輝きと共に乗っていたからである。

秋子:「さぁ、祐一さん。 今日はパーティなんですから・・・」

 秋子はそう言って祐一を引っ張り起こすと家の中へと姿を消した。

祐一:「・・・秋子さん、みんなにこれ、配る気だ・・・。

   面白そうだけど・・・なんだかなぁ・・・嫌な予感しかしないのは気のせいだろうか・・・」

 祐一は確信的な思いを胸に水瀬家の門をくぐるのだった。

 

 

 

 

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