祐一と真琴は、水瀬家の玄関での恐怖も忘れ、香里達のシートでゆったりとくつろいでいた。
祐一達が到着した後、舞と佐祐理さんを見つけ、そして美汐もいつの間にか現れて真琴の相手をしていた。
平和だった・・・何もかも・・・
誰もこの瞬間が壊されようとは夢にも思っていなかっただろう・・・
しかし・・・終わりは突然やってくる・・・
あゆ:「ゆ〜いちく〜んっ!!」
祐一:「あゆ、こっちだ」
祐一はあゆの姿を見つけ、手を振る。
あゆはに向かって一目散に走り寄ってくる。
祐一:「随分とゆっくりだったな?」
あゆ:「てへへ〜、じゃ〜んっ!! これを作ってたんだよ」
そう言ってあゆは両手を前に突き出す。
あゆの手にはラッピングされたクッキーが乗っていた。
祐一:「これ・・・あゆが作ったのか?」
あゆ:「うんっ! そうだよ」
祐一:「へ〜、やれば出来るじゃないか」
数年前の碁石クッキーとは比べ物にならないほどの出来栄えである。
あゆ:「がんばったもん。 ちょっと秋子さんに手伝って貰ったんだけどね」
あゆが舌をちょこんと出してそう言った。
祐一:「いや、それにしても良く出来てるよ。 貰っても良いのか?」
あゆ:「うんっ!!」
祐一はあゆから包みを受け取った。
その光景を香里を除く女子が全員食い入るように見つめている。
そんな中で祐一はクッキーを一枚取り出すとそのまま口の中へと入れた。
祐一:「ぐぼはぁっ!?」
クッキーを食べた祐一の口から大量の血が流れ出す。
あゆ:「祐一くんっ!?」
あゆは予想を上回る祐一の反応に驚きを隠せない。
あゆ以外のKanon女子も少し驚いたような顔で祐一を眺めている。
祐一:「な・・・何を・・・」
名雪:「まず一人目だよ〜」
名雪と秋子さんがゆっくりと近づいてくる。
2人の肩からは『ジャム普及委員』と書かれたたすきが掛けられている。
そして、それぞれの手には、大きなバスケットが提げられている。
祐一:「名・・・雪・・・何を・・・」
名雪:「何をって・・・『あれ』に決まってるじゃない♪」
涼しい顔で恐いことを言う。
名雪の言葉を聞いて、あゆ、香里、真琴の『あれ』体験者と勘のいい舞は何かを感じ、少し後退る。
あゆは名雪の言葉に衝撃をうけ、ふらふらと地に座り込んだ。
目には涙も浮かんでいた。
栞:「祐一さん、なんで倒れるんですか?」
そんなあゆを見て、栞は不思議そうな顔でクッキーを眺める。
祐一:「し・・・おり・・・」
栞:「こんなにおいしそうなのに・・・」
そう言って栞は祐一の手から一枚のクッキーを取り出す。
香里:「栞っ!ダメッ!!」
栞:「え・・・」
クッキーを口にくわえたそのままの形で栞も倒れた。
香里の言葉も虚しく、2人目の犠牲者が出てしまった。
栞の最後の顔は・・・笑顔だった。
栞:「私・・・最後まで・・・笑っていられましたか・・・?」
香里:「し・・・栞・・・」
栞はそう言い残すと、がくりと横たわった。
香里はそんな栞の横に立ち、呆然としている。
北川:「お、おいっ、美坂っ!! なんなんだよこれは!?」
北川がすでに事切れている2人を指さし小声で叫ぶ。
香里が水瀬〜’sには聞こえないように北川に掻い摘んで話した。
北川:「そういうことか・・・でも、まずいだけなんだろ?」
香里:「あの2人を見れば分かると思うけど・・・死ぬわよ」
北川:「・・・う・・・でも・・・」
秋子さんは微笑みながらシートに座っている。
ただ座っているだけなのだが・・・妙な威圧感がその場を覆い尽くしていた。
北川:「・・・そうだ!! だったら、ジャムなんて使わないような料理なら大丈夫なんだろ?」
北川が遂に『秋子さんの笑顔の沈黙』に耐えきれなくなり、秋子さんのほうへと向かう。
北川は水瀬〜’sの手に提げられていたバスケットの中を覗いてみる。
入っているのはショートケーキ、チョコレート、キャンディ、大福、ようかん、缶ジュースなどなど・・・
北川:「じゃ、このチョコでも」
北川は一口サイズのチョコを口の中に放り込む。
途端、血を吐き倒れた。
北川:「な・・・何故・・・」
そんな北川を香里は悲壮な瞳で見つめている。
香里:「北川くん・・・冥土の土産に教えてあげる・・・」
北川:「香里・・・」
香里:「クッキーにもジャムは使わないわよ」
北川:「そう・・・だった・・・」
北川はそう言い残すと消滅した・・・
美汐:「あの・・・香里さん・・・」
美汐がおずおずと言った表情で香里の名を呼ぶ。
香里:「何?」
名雪同様、涼しい顔で聞き返す。
美汐:「えっと・・・北川さんが消えてしまわれたんですけど・・・」
香里:「ザコ敵は倒せば消えるものよ」
香里は冷静に、そして瞬間的にそう言い放った。
美汐:「・・・そうですね」
美汐も今の説明で納得したらしい。
コクリと頷き、真琴の横に座り直す。
香里:(・・・どうやってここから逃げようかしら・・・)
香里はそんなことを考えていたのだが、秋子さんから逃れるすべはまったくない。
その間に秋子さんは美汐を標的と定めたようだ。
美汐の方へ、バスケットを持ったまま躙り寄る。
秋子:「天野さんもどうですか?」
秋子さんのその手にはまん丸い大福が乗せられている。
中が少しオレンジがかった色をしているが・・・
美汐:「え・・・と・・・」
躙り寄る恐怖に美汐は声すら満足に出せる状況ではなかった。
真琴:「美汐っ、ダ・・・」
真琴も最後まで声が出せなかった。
秋子さんが少しこちらを向いただけで・・・
目を合わせると微笑んでいるように見えるが心の奥底は笑っていないように感じる。
『邪魔したら殺りますよ』という感じだけがひしひしと伝わってくる。
その気配は美汐も感じたらしく、秋子さんの手の中の大福を受け取った。
秋子:「さ、ぱくっと逝っちゃって下さい♪」
字が少し違います・・・
しかし、美汐は断れる訳もなく、大福を口に運ぶ。
美汐:「・・・真琴・・・良い名前ね・・・」
真琴を見て微笑むと、美汐の意識は暗い闇の中へと落ちていった。
真琴:「あ、あう〜っ!! 美汐・・・」
美汐の肩を揺さぶりながら、真琴は秋子さんを睨み付ける。
真琴:「よくも美汐をっ!! 許さないんだからっ!!」
秋子:「あらあら、真琴は元気ねぇ。 じゃぁ、これでもどうですか?」
秋子さんはバスケットを漁ると、肉まんを取り出した。
まだ、湯気も立っている。
真琴:「肉ま〜んっ!!」
真琴は秋子さんの手にそのままの勢いでかぶりつく。
と同時に白目をむいて倒れてしまった。
秋子さんは微笑んだまま、今度は佐祐理と舞の方を見た。
舞:「佐祐理は私が守るっ!!」
舞が佐祐理をかばう形で秋子さんと向かい合う。
秋子:「では、川澄さんが食べてくださるんですね」
秋子さんがにっこりと笑いながら、舞にショートケーキを差し出した。
さすがの舞もじりじりと後退る。
佐祐理はそんな2人を見てぽかんと口を開けている。
佐祐理:「ほぇ〜、ちょっとお腹空いちゃいましたね〜・・・」
そう言って佐祐理は辺りに置いてあるものを食べ始めた。
その間に、舞も秋子さんの威圧に勝てず、無惨に倒れてしまっていた。
佐祐理:「あれ〜? 舞、どうしたの?」
佐祐理さんが倒れている舞の傍らに寄ってくる。
佐祐理:「舞ったら、口にケーキがついたままですよ〜。
よっぽどおいしかったんですね〜」
秋子:「倉田さんもどうですか?」
秋子さんが舞の食べたものと同様のケーキを佐祐理さんに差し出す。
佐祐理:「あはは〜、いただきます〜」
そう言って佐祐理さんも一口食べ、ぱたりと・・・
倒れず、ぺろりと全てを食べ終えてしまった。
佐祐理:「やっぱりおいしかったですね〜」
佐祐理は笑顔でそう答えた。
これにはあゆと名雪、香里も驚いた。
まさかあのジャムを食べて倒れない人がいるだろうとは夢にも思っていなかったのである。
秋子:「あら、いけるくちですね」
佐祐理:「あはは〜、そんなことないですよ〜。 佐祐理はちょっと頭の悪い普通の女の子ですから〜」
あゆ、名雪、香里が佐祐理の言葉に揃って首を振る。
あゆ:(普通だったら・・・)
名雪:(お母さんのジャムを・・・)
香里:(平気で食べるなんて・・・)
あゆ&名雪&香里:(できるはずないっ!!)
だが、3人の心の叫びをよそに、秋子さんと佐祐理さんの会話が続く。
そして、ついに言ってはいけない言葉を佐祐理さんは口に出してしまった。
佐祐理:「こんなにおいしいんですから、周りの皆さんにもお裾分けしてきましょう〜」
そう言って佐祐理さんが立ち上がる。
秋子:「そうですね、そうしましょうか」
秋子さんも続いて立ち上がる。
そんな2人を見て、あゆ、名雪、香里は言葉も出ない。
そうして2人はジャム入り食物を手に、花見会場をとことこと歩いていった。
・・・翌日
水瀬家において
秋子:「あら、集団食中毒ですか・・・恐いですね」
秋子さんは新聞を手に呟いた。
その新聞には花見会場で謎の病気が発生・・・などなど・・・
秋子:「祐一さんと真琴も倒れてますし・・・大変ですね」
秋子さんはそう言って鍋に火を掛けた。
その中にはオレンジ色に輝く物体が・・・
秋子さんがこのジャムの味に気付く日は来るのだろうか・・・
・・・たぶん来ないのだろう。
今日も今日とてジャムは作られているのであった・・・
HAPPY END・・・かな?
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