真琴:「お花見〜っ!!」

 真琴の元気な声が水瀬家中に広がる。

 今は日曜の朝7時・・・この家の娘、名雪と居候の祐一、あゆはまだ深い眠りの中であった。

 あゆは病院から退院した後、祐一と同じく水瀬家に居候中である。

 この家の家主である秋子さんはすでに起き、朝食の準備中である。

祐一:「・・・今、何時だ・・・?」

 祐一が枕元の時計を手に取り、時間を確認する。

 学校のある日ならそろそろ起きなければならないが、今日は学校は休みである。

祐一:「・・・寝よ・・・」

 そうして祐一は何事もなかったかのように再び眠りについた。

 しかしそれも長くは続かなかった・・・

真琴:「祐一っ、お花見行こっ、お花見っ!!」

 真琴が祐一の部屋に侵入し、祐一の寝ている上にぺたんと座ったからである。

祐一:「・・・」(気にしない気にしない・・・)

 祐一は真琴を相手にせず、寝たふりを続けていた。

真琴:「あう〜、起きないよぅ・・・秋子さ〜んっ!! 祐一が起きてくれないよぅ〜っ!!」

 真琴の元気な声が再び水瀬家中に響く。

秋子:「あらあら、しょうがないわね。 じゃあ、このジャムでも・・・」

祐一:「おはようございます、秋子さん」

名雪:「おはよう、お母さん」

あゆ:「秋子さん、この卵焼きおいしいね」

 階下の秋子さんの声(ジャム)の効果は絶大で、祐一だけでなく、眠り姫名雪までも起こすことができた。

 あゆに至っては朝食まで食べ始めている。

 しかも皆、着替え終わっている。

 ・・・皆、変な汗もかいているが・・・

秋子:「あら、残念ですね・・・」

 秋子さんはそう言って『例のあのジャム』を戸棚にしまう。

祐一:「・・・真琴〜、そんなところで何やってるんだよ〜」

 祐一はほっとしながら祐一の部屋にいるままの真琴に声をかける。

 真琴はわからないといった表情で階段を下り、リビングへと入ってくる。

真琴:「あう〜、みんな、どうやって下に来たの〜・・・?」

祐一:「階段からに決まってるだろ? 何言ってんだよ、寝ぼけてるのか?」

真琴:「それにしたって、速すぎるわよ・・・」

秋子:「はいはい、じゃあ、みんな、早くご飯食べちゃいましょう。

   お昼頃からお弁当を持ってお花見にしましょう」

祐一&名雪&あゆ&真琴:「は(〜)い」

 朝食後・・・

祐一:「じゃあ、場所取り、行ってきます」

秋子:「はい、後で私たちも行きますから・・・真琴と仲良くしてくださいね」

真琴:「あう〜、なんで私まで・・・」

祐一:「弁当を作れないやつは場所取りって相場は決まってるんだよ、さ、行くぞ」

 祐一はしぶっている真琴を引きずりながら、玄関を出る。

祐一:「ふわぁ〜、いい天気だぁ」

 祐一は伸びをしながら外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

真琴:「うぐっ、うぐっ!!」

祐一:「おいおい、真琴。 あゆの真似か?」

 祐一が真琴のほうを見ると、真琴は今にもあの世へと旅立ちそうだった。

祐一:「お、おいっ!! 真琴っ!?」

 祐一は必死になって真琴の肩を揺する。

真琴:「あ、あう〜・・・死ぬかと思った・・・」

 無事(?)生還した真琴はゼイゼイ肩で息をし、地面にへたり込んだ。

祐一:「ど、どうしたんだ?」

真琴:「どうしたもこうしたもないわよっ!! 祐一が私の服の襟を持ったまま伸びをしたから・・・」

 祐一を睨み付ける真琴の目は少し潤んでいる。

祐一:「・・・すまん、気が付かなかった」

真琴:「気が付かなかったで人を殺さないでよっ!!」

 あ〜だこ〜だ・・・

名雪:「2人とも・・・何やってるの・・・?」

 玄関が騒がしいので名雪が出てくると、10分前に出ていったはずの祐一と真琴がまだそこにいた。

祐一:「あ、名雪。 そうだ、聞いてくれよっ!! 真琴のやつ・・・」

真琴:「祐一ったら名雪に頼るんだ〜。 男らしくな〜い」

祐一:「何をっ!?」

真琴:「何よっ!!」

秋子:「これはジャムですよ?」

 いつの間にか現れた秋子さんが手に『あれ』を持って立っている。

 祐一も真琴も、ついでに名雪もその場に凍り付いてしまう。

秋子:「祐一さん・・・」

祐一:「は、はいっ!!」

秋子:「真琴と仲良く・・・って言いましたよね・・・」

 秋子さんは笑みを崩さず、普段の調子で祐一に話しかける。

 しかし、いつもの慈母のような顔も、今の祐一達にとっては恐い以外の何者でもない。

 手に『あれ』が乗っているので尚更だ。

祐一:「えと・・・そ、そうだっ!!真琴っ!! 早く行かないといい場所がなくなっちゃうぞっ!!」

真琴:「え・・・そ、そうだね〜、祐一っ!! そ、それじゃあ、行こっかっ!!」

祐一:「それじゃあ、秋子さん・・・」

祐一&真琴:「行ってきますーっ!!」

 ここまでの会話を流れるような動作で済ませ、2人は全力でその場を逃げ出した。

 玄関の後に残ったのは秋子さんと名雪のみ・・・

秋子:「残念ねぇ、『これ』を試してみたかったんですが・・・」

 そう言って秋子さんは名雪のほうを向く。

秋子:「ねぇ?」

 秋子さんはそのまま『あれ』を名雪に見せる。

名雪:「お・・・母・・・さん・・・?」

 ・・・その悲鳴は遠く、何処までも響いたという・・・

 

 その悲鳴を聞いて、祐一は・・・

祐一:「すまんっ!!名雪っ!! こうするしか方法が無かったんだーっ!!」

 ・・・叫びながら、お花見会場の噴水公園へと走り続けていた。

 

 その頃あゆは・・・

あゆ:「秋子さ〜ん、このイモリのしっぽ、入れちゃっていいのかな?」

秋子:「いいですよ」(ふふ・・・皆さん、待っていてくださいね・・・)

 あゆは適当にその辺りにある物を鍋に突っ込む。

あゆ:「これでおいしいクッキーが作れるんだよねっ♪」

秋子:「ええ、そうですよ」

 鍋の中ではオレンジ色の物体がどろどろと渦巻いている・・・

 ちなみに、一般にクッキーは鍋では作らないと思います・・・

名雪:「お母さん・・・私も手伝うよ・・・」

 すでに目が虚ろな名雪が玄関から入ってくる。

秋子:「あら、助かるわ・・・さ、そろそろ出来上がりますからね」

あゆ:「わぁ〜いっ♪」(祐一くん、喜んでくれるかな〜)

 あゆは何も知らず、祐一滅殺用殺人兵器を作っている。

 それを見守る秋子さんの笑顔はあまりにも優しい笑顔だった・・・

 

 2人はやっとのことで公園まで辿り着いた。

 公園はたくさんの人で賑わい、いつもの静かな面影は何処にもない。

祐一:「はぁ・・・はぁ・・・こ、ここまで来れば・・・」

栞:「何が『ここまで来れば』なんですか?」

祐一:「うおっ!? ・・・って栞か・・・」

栞:「栞『か』って・・・『か』っていうのはなんなんですかぁ」

 栞が少し拗ねたような顔で祐一を見つめる。

祐一:「いや、すまん・・・でも・・・」

真琴:「ゆ〜いち〜・・・速いよ〜・・・」

 祐一が栞に説明しようとした瞬間、わずか後方から情けない声があがる。

祐一:「真琴っ!! ちょっと遅かったな・・・」

真琴:「ゆ〜いちが速すぎるのよぅっ!!」

祐一:「毎朝名雪に鍛えられてるからな」

 祐一は胸を張って威張るが、あんまり自慢にはなっていないような気がする・・・

香里:「はいはい、そのぐらいにしてこっちに来なさいよ」

祐一:「おお、香里。 ついでに北川」

北川:「ついでは余計だっ!!」

香里:「はいはい、北川くんも怒らないの。 こんなこと、いつもの事でしょ」

 香里の言葉に北川はしぶしぶ従った。

香里:「ちょっと遅かったんじゃない?」

祐一:「あ、ああ・・・実は・・・」

 祐一は今までにあったことをすべて話した。

香里:「なるほど・・・で、相沢くんは名雪を生け贄に捧げて逃げ延びたのね」

 香里の冷たい視線が祐一に刺さる。

祐一:「・・・面目ない・・・」

香里:「・・・でも・・・しょうがないわね。 名雪ならきっと大丈夫よ。 ここまで悲鳴が聞こえたけどね」

祐一:「そうだな、名雪だしな」

 祐一達は取りあえず良しとして、香里達のシートへと向かった。

 

 水瀬家では・・・

あゆ:「できた〜っ!!」

 何処をどうして作ったのか、あの鍋の中身はクッキーへと変貌していた。

秋子:「よかったですね」

名雪:「よかったね、あゆちゃん。 早く祐一に食べさせてあげないとね」

 秋子さんは微笑んでいる。

 名雪も微笑んでいる。

 あゆも満面の笑顔だ。

 だが、あまりにも周りの空気はどす黒く染まっていた・・・

秋子:「さ、では行きましょうか」

 こうして死に神が現世に降り立った・・・

 

 

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