あゆ:「祐一く〜んっ!!」

 雪の積もった商店街の道を猪の如く向かってくる人影が1つ。

 レーダーに敵の反応を捕らえ、相沢祐一は回避行動に移る。

 先刻まで祐一のいたであろう場所に1人の天使が舞った。

 その名は月宮あゆ。

 その天使は綺麗に宙を舞い・・・祐一の連れである従姉の水瀬名雪の頭に見事な頭突きをかまして倒れる。

 むくりと上半身を起こすあゆと名雪。

 そしてお互いの顔を見合わせて叫んだ。

あゆ&名雪:「い・・・入れ替わってるーっ!?」

祐一:「んなわけないだろう・・・がっ」

 息を吐くのと同じタイミングで祐一の拳骨があゆと名雪の脳天を強打する。

あゆ:「うぐぅっ」

名雪:「うにゅっ」

祐一:「ほらな、変わってないだろ」

 得意げに言った祐一に非難の視線が下から降り注ぐ。

 当然その視線の主はあゆと名雪だ。

あゆ:「ひどいよ、祐一くんっ」

名雪:「そうだよ〜、極悪人だよ〜」

祐一:「はいはい、それはいいからとっとと立ち上がれよ、2人とも」

 2人の非難の声を遮り、2人に手を差し出す祐一。

 言いたいことはまだまだあるのだろうが、2人とも大人しく差し出された手に掴まる。

祐一:「よっ・・・と。 で、なんだ、あゆ。 今日も食い逃げ記録を更新中か?」

 コートのお尻をぱたぱたと叩くあゆに祐一が尋ねる。

あゆ:「ち、違うよっ!! 今日は捜し物をしてたんだよ」

 捜し物と聞いて、祐一の顔が少し曇る。

祐一:「天使の人形は見つかっただろ?」

 あの人形にはいろいろな想い出が詰まっている。

 以前、数々の奇跡を起こしてみせたあゆの天使の人形。

 結果的には祐一に関わった者全てに奇跡を起こした。

 その奇跡を起こした張本人さえもが助けられた人形は今もあゆが保管しているはずだ。

あゆ:「違うよ、あの人形は大事にとってあるよ。 そうじゃなくて、今日は祐一くんを捜してたんだよ」

祐一:「俺を? またどうして?」

あゆ:「会いたかったから」

祐一:「何故?」

あゆ:「えっと・・・新年のご挨拶に・・・」

祐一:「除夜の鐘を聞きながら俺を脱がしてたのは何処のどいつだった?」

あゆ:「うぐぅ・・・あ、あれは酔った勢いで・・・そ、それに秋子さんが初めだよっ」

 そう言いながらあの時のことを思い返す。

 

 祐一が秋子の作った年越しそばを啜りながら鐘の音を聞いていた。

 ふと辺りを見回すと顔を紅くしたKanon女性陣が祐一を取り囲んでいた。

祐一:「え・・・っと・・・皆様・・・どうなさったんで・・・?」

 祐一の言葉を遮り、秋子の言葉が響いた。

秋子:「了承」

祐一:「へ?」

 一斉に祐一の服に掴みかかる女性達。

 何が起こったのか理解し逃げ延びるまでに、祐一はほぼ全裸に近い状態になってしまっていた。

 

祐一:「結局誰がナニをアレしたかは分からなかったんだが・・・」

名雪:「わっわっ、そんな話をこんな所でしないのっ。 それにあゆちゃんをいじめないのっ」

 耳まで真っ赤にした名雪が止めに入る。

名雪:「えっと、あゆちゃんは祐一に用事があるみたいだし、私は先に帰るね〜」

 そう言うと名雪は意味ありげに祐一の肩を叩き、走り去っていった。

 あゆはその背中に大きく手を振っている。

祐一:「・・・ったく、言われなくてもわかってるさ」

 祐一の呟きはあゆには届かなかった。

 

祐一:「・・・で、何の用事だったんだ、一体?」

 たい焼きを頬張るあゆに尋ねる。

あゆ:「めむみまんめも・・・」

祐一:「すまん・・・先に食べてくれ」

あゆ:「うむぅ」

 口からはみ出た尻尾を押し込み、もぐもぐと口を動かす。

あゆ:「・・・ふぅ、それで・・・何の話だっけ?」

祐一:「いや、だから、何だって俺を捜してたんだってこと」

あゆ:「ん〜とね・・・会いたかったんだよ

 俯き加減でぽそりと呟くあゆに祐一のHEARTがどくんと高鳴る。

 勢いであゆの肩をぐっと掴む。

祐一:「・・・あゆ」

あゆ:「う、うぐぅ・・・ゆ、祐一くん・・・目が恐いよ・・・」

 ぎらぎらと欲望の光を携えた祐一の目におびえるあゆ。

 だが祐一はそんなことには構ってはいられなかった。

祐一:「・・・トイレ行って来る」

あゆ:「・・・へ?」

 祐一は言葉を放つと近くのコンビニへと猛ダッシュ。

 あゆは呆然としてそれを見送るのだった。

 

祐一:「・・・ふぅ、さすがにジャンボミックスパフェデラックス20分で食べきったら1万円はきつかったか・・・」

 そんなことを呟きながらコンビニを出てくる祐一。

 辺りを見回す。

 あゆはいない。

祐一:「・・・まずいな、怒らせちゃったか・・・今日はあいつの・・・」

 

あゆ:「うぐぅ・・・祐一くん、放って来ちゃったけど心配してないかな・・・」

 ゆっくりと何処へともなく歩きながらあゆは呟いた。

あゆ:「・・・せっかく今日は祐一くんとの7年ぶりの再会記念日だったのに・・・って、あれ? ここ、何処だろ」

 辺りを見渡すと木、木、木・・・

 どうやらあのいろいろな想い出のある大木のあった森にいつのまにか迷い込んでいたようだ。

 あゆはふと、退院してから生身の身体では一度も来ていないことに気付く。

 良い想い出も多く含んではいるが、7年の歳月を失った原因となる場所でもある。

あゆ:「・・・よしっ」

 意を決してあゆは森の中を進む。

 大木のあった場所を目指して・・・

 自分が今どの辺りを進んでいるのかも分かっていないのに・・・

 

 その頃、祐一もどういうわけか森の中を彷徨っていた。

祐一:「あゆの匂いをかぎ分けながらここまで来たが・・・一体何処にいるんだ、あゆのやつ・・・」

 冗談をかます余裕も見せながら祐一が森の中を進んでいく。

 本当は道行く人に羽リュックを背負った少女が何処に行ったのかを尋ね続けていたのだ。

 だが、森に入ったはいいが完璧に迷っていた。

祐一:「・・・死ぬかな」

 この辺りの冬の寒さは尋常ではないことを祐一は知っていた。

 夜を明かすとなるとそれなりの準備が必要となる。

 今の装備では到底夜の寒さを堪えることは出来ないだろう。

 よくもまぁ名雪達はあの制服で我慢できるな・・・

 人ごとのように考えながら歩く足はそれなりに焦りを見せている。

 その時、背後からがさりと草木をかき分ける音が聞こえた。

 野犬か・・・熊か・・・もしくは死んだ栞の「そんなこと言う人嫌いですっ!!」・・・気のせいだな・・・

祐一:「そんなことより・・・本当に野犬なんかだったら・・・」

 がさり・・・がさり・・・

 何だ・・・

 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ・・・

 ・・・速度が上がったっ!?

 足音がどんどん近づいてくる。

 祐一はすぐさま逃げられるように体勢を整える。

 そして遂にその生物が姿を現した。

 

あゆ:「うぐぅ〜、祐一く〜ん」

祐一:「なんだ、あゆだったのかぁ〜、わっはっは〜」

 

祐一:「・・・っとかなるかと思ったんだけどなーっ!!」

 そんなことを叫びながら祐一は足場の悪い道のりを全力で走り抜ける。

 背後から迫ってくるのは野犬野犬野犬・・・祐一の予想は見事に当たったようだ。

祐一:「1匹ずつなら相手も出来るんだが・・・数がな・・・ちょっと多すぎだっ!!」

 息を切らせながら背後をのぞき見る。

 1,2,3・・・いっぱいだ。

 換算能力が幼児並みに低下してしまっていた祐一には前方からやってくる大きな人影に気付かなかった。

 どおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーんっ 

祐一:「ぐはぁっ!! な、何だっ!?」

 前方を見れば転がる少女の死体。

あゆ:「うぐぅっ!! 祐一くんっ!?」

 がばっと起きあがる死体がそう叫ぶ。

祐一:「あゆっ!? ・・・なんかこういう展開って・・・」

あゆ:「もしかして・・・」

祐一&あゆ:「「逃げようっ!!」」

 あゆと祐一、それぞれを追いかけていた野犬の群が合わさる。

 野犬たちはそれぞれの標的を相手の野犬の群に変更し、直ちに戦闘に移った。

 よって祐一とあゆを追いかけるものは何もなくなっていたのだが・・・

あゆ:「うぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

祐一:「のわぁーーーーーーーーーっ!!」

 2人は脇目も逸らさず突っ走っていた。

 

 そうこうしているうちに廻りに廻って遂に切り株の元へと辿り着いていた2人組。

あゆ:「つ・・・疲れたよ・・・」

祐一:「いや・・・死ぬかと思った・・・まぢで・・・」

 2人は息を整えようと切り株に歩み寄る。

あゆ:「あっ・・・」

 あゆが切り株を見て唖然としている。

 それはそうだろう、想い出の木が刈られているのを見ればそんな反応にもなるだろう。

 だが、あゆの漏らした声は驚愕の声ではなく喜びの声だった。 

あゆ:「祐一くんっ、ほら、芽が出てるっ!!」

祐一:「ん・・・そうか・・・この木はまだ死んでなかったんだな・・・」

 切り株の間から覗く木の芽を見て笑みを零す2人。

 そろそろいいか・・・

 祐一はそう思い、コートのポケットから包みを取り出す。

祐一:「あゆ、これ・・・」

あゆ:「ほぇ?」

 包みを受け取ったあゆが頭上に?を浮かべている。

祐一:「えっと・・・誕生日おめでとう・・・あゆ」

 世界が夕焼けに染まった中、2つの影がゆっくりと重なり合った・・・

 

 

 

 

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